交通事故
交通事故に遭ったら・・・現場ですべきこと一覧
交通事故に遭った際、現場で被害者が行うべき初動対応は、後の損害賠償請求(保険請求)や裁判での事実認定に決定的な影響を与えます。
1. 救護活動と警察への通報(法律上の義務)
まず、負傷者の救護と道路上の危険防止を行うことが最優先です。その上で、必ず警察へ通報(110番)してください。
- 「交通事故証明書」の発行: 警察に届け出ないと、保険金の請求に不可欠な「交通事故証明書」が発行されません。
- 人身事故としての届出: 痛みがある場合は必ず「人身事故」として届け出てください。物件事故(物損)のままだと、裁判で過失割合を争う際に重要な「実況見分調書」が作成されないリスクがあります。
2. 相手方の情報確認と特定
後日の連絡や請求をスムーズにするため、相手方の情報を詳細に記録します。
- 氏名・住所・連絡先: 運転免許証を確認させてもらうのが確実です。
- 車両情報: ナンバープレートを写真に撮るかメモします。
- 保険加入状況: 自賠責保険だけでなく、任意保険の会社名や証券番号も確認してください。
3. 現場証拠の保全(裁判での事実認定に直結)
事故態様(信号の色や一時停止の有無など)に争いが生じた場合、客観的な証拠が最も重視されます。
- 現場および車両の損傷写真:
- 車両の損傷箇所: ズームだけでなく、「衝突の高さ」や「入力方向」が判別できるよう、車両全体が入るアングルからも撮影してください。
- 現場の状況: タイヤ痕、落下物、信号機の位置、道路の規制標識などを記録します。
- ドライブレコーダー・防犯カメラ:
- ドラレコ映像の保存: 自分の車だけでなく、相手方のドラレコの有無も確認してください。データが上書きされないよう早急に保存する必要があります。
- 防犯カメラ: 現場周辺のコンビニや商店などのカメラに事故が映っている場合、保存期間が1〜2週間と短いことが多いため、早急に取得(または保存の依頼)を検討してください。
- 目撃者の確保: 第三者の目撃証言は非常に強力な証拠になります。目撃者がいた場合は、その場で氏名と連絡先を聞いておいてください。
4. 自身の保険会社への連絡
弁護士費用保険(LAC)などの特約を利用する場合も含め、自分の加入している保険会社に事故発生を報告してください。
- 弁護士費用特約の確認: 加入していれば、弁護士への相談費用や成功報酬が保険から、相談料が10万円、報酬が300万円まで支払われます。なお、親族の保険も含めて確認しましょう。
5. 直後の受診(人身損害請求のために)
現場で「大したことはない」と思っても、当日中に整形外科などの医療機関を受診してください。
- 初診時期の重要性: 事故から通院開始まで期間(概ね4日以上)が空いてしまうと、裁判等で「事故と怪我の因果関係」が否定されるリスクが高まります。
注意点:不用意な念書は書かない 事故直後の興奮状態で「自分がすべて悪い」といった念書や合意書を差し入れてしまうと、後からその内容を覆すことが困難になる場合があります。責任割合については、後日客観的な証拠に基づいて判断されるべきものと考え、その場での安易な約束は避けてください。
ドライブレコーダーがない場合に現場で撮影した方が良いものは?
ドライブレコーダーがない場合、現場写真や車両の損傷写真は、事故態様を明らかにするための極めて重要な「動かしがたい証拠」となります。後の賠償交渉や裁判で不利にならないよう、以下のポイントに沿って撮影を行ってください。
1. 車両の損傷写真(衝突の状況を証明する)
車両の傷は、衝突時の速度、角度、ブレーキの有無などを雄弁に物語ります。
- 多角的な全体像: 損傷箇所だけをズームで撮るのではなく、「正面・左右斜め・真横」など、車両全体のパノラマを撮影してください。これにより、損害の程度や力が加わった方向(入力方向)が明確になります。
- 損傷箇所のアップ: 傷に正対した写真も撮影します。
- 「高さ」の記録: 相手車両と自分の車両の傷の高さが一致するかは重要です。スケール(定規)を地面に接地させて、傷の高さを撮影しておくと、衝突時の姿勢(ブレーキによる沈み込み=ノーズダイブの有無など)を客観的に証明できます。
- 付着物: 相手車両の塗料や樹脂が付着している場合は、その詳細も記録してください。
2. 事故現場の状況写真(現場の客観的証拠)
事故当時の道路状況や規制を記録します。
- 路面の痕跡: スリップ痕(タイヤ痕)や自動車の破片・落下物が落ちている場所を撮影してください。これらは事故の発生位置や車両の動きを特定する手がかりになります。
- 周辺のインフラ: 信号機の位置、道路標識、一時停止線、道路の道幅(幅員)などがわかるように撮影します。
- 見通し(運転者の視点): 自分が進行してきた方向、および相手が進行してきた方向からの「見通し状況」を撮影しておくと、相手の「前方不注視」などを立証する際に役立ちます。
3. 撮影のコツと留意点
- 「全体から詳細へ」の流れ: まずは現場の全体状況がわかる遠景を撮り、徐々に近づいて細部を撮るという流れで記録してください。
- 撮影位置の記録: どの位置からどの方向を向いて撮った写真なのかを、現場の見取図などと照らし合わせられるようにしておくと証拠としての価値が高まります。
- 早めの撮影: スリップ痕や落下物は時間の経過や通行車両によって消えてしまうため、可能な限り事故直後の記録が望ましいです。
ドライブレコーダーがない場合でも、これらの客観的な写真を組み合わせて検討することで、当事者の供述の妥当性を判断し、正確な事実認定につなげることが可能になります。
弁護士費用特約について詳しく
弁護士費用特約(弁護士費用担保特約)は、交通事故などの被害に遭った際、加害者に損害賠償請求をするために必要な弁護士費用や法律相談料を、保険会社が一定の限度額まで補償する制度です。
日本弁護士連合会(日弁連)と協定を結んでいる保険会社等の制度(LAC制度)を中心に、その内容と注意点を詳しく解説します。
1. 補償内容と限度額
一般的に、以下の範囲で保険金が支払われます。
- 弁護士費用: 1事故につき、被保険者1名あたり300万円まで。
- 法律相談料: 1事故につき、被保険者1名あたり10万円まで。
この特約を利用しても、多くの場合、自動車保険の「ノンフリート等級」には影響せず、翌年の保険料が上がることはありません。
2. 利用するメリット
- 費用倒れの防止: 損害額が少ない軽微な物損事故でも、弁護士費用を気にせず依頼できるため、自己の権利を確保しやすくなります。
- 精神的負担の軽減: 弁護士が窓口となることで、相手方保険会社との煩わしい交渉から解放され、治療に専念できます。
- 直接支払制度: 多くの保険会社では、依頼者が一旦立て替える必要はなく、保険会社から弁護士へ費用が直接支払われます。
3. 対象となる事案と範囲
- 対象事案: 主に不法行為に基づく損害賠償請求(交通事故など)が対象ですが、最近では労働問題、離婚、遺産相続などの一般民事事件に範囲を広げた商品も登場しています。
- 対象者: 記名被保険者だけでなく、その家族や同乗者も対象に含まれる場合があります。
4. 弁護士費用の支払基準(LAC基準)
保険金として支払われる金額は、日弁連と保険会社の協定に基づく「支払基準」に従って算出されます。
- 着手金・報酬金方式: 経済的利益(賠償額)に応じて算出されます。
- 2025年1月からの新基準: 経済的利益が125万円以下の少額事案について、報酬金を一律20万円(税別)とする新基準が施行されました(適用可否は保険商品によります)。
- 時間制報酬(タイムチャージ): 軽微な物損事故など、経済的利益が少ない場合には、弁護士の執務時間に応じて報酬を支払う方式も認められています。基準額は原則1時間2万円(税別)です。
5. 利用時の注意点
- 自己負担が発生する場合: 弁護士との契約内容が保険会社の支払基準を超える場合や、総額が300万円の限度額を超えた場合、その超過分は自己負担となります。
- 弁護士の選任: 保険会社を通じて弁護士の紹介を受けることもできますが、自分で選んだ弁護士に依頼することも可能です。
- 事前の確認: 保険商品によって待機期間や免責金額(自己負担分)が設定されていることがあるため、受任前に約款の内容をよく確認する必要があります。
- 刑事事件: 多くの特約は民事の損害賠償が対象ですが、一部、刑事事件の弁護士費用を補償する商品も存在します。
特約に加入しているか不明な場合は、保険証券を確認するか、保険会社へ問い合わせることをお勧めします。
自分の過失が100%の事案では、原則として相手への損害賠償請求には利用できません。
理由は以下の通りです。
4. 弁護士費用特約の目的
資料(LACマニュアル)によると、この保険の主な支払対象は、「不法行為に基づく損害賠償請求」を行う際に負担する費用です。つまり、相手に対して損害賠償を求めるための費用を賄うものであり、「被害回復のための弁護士費用を賄う保険」と定義されています。 したがって、自分が100%加害者である場合、相手に対して請求できる権利(損害賠償請求権)が発生しないため、この特約の対象外となります。
5. 相手方からの請求に対応する場合
自分が加害者として相手方から損害賠償を請求された場合(または反訴された場合)の弁護士費用についても、「被害回復」が目的である弁護士費用特約からは支払われません。 ただし、以下の点に留意が必要です。
- 主契約での対応: 相手への賠償に対応するための費用は、多くの場合、弁護士費用特約ではなく、自動車保険の主契約(対人・対物賠償責任保険)から支払われる可能性があります。
- 示談代行: 多くの任意保険には「示談代行制度」が備わっており、保険会社が被害者との折衝を代行します。
6. 刑事事件の場合(例外的なケース)
事故の態様によっては、加害者として刑事責任を問われることがありますが、近年では「交通事故における刑事事件の弁護士費用」を補償するタイプの保険も販売されています。
- 故意や重過失を除き、逮捕・起訴された場合の弁護士費用をカバーする商品があります。
- このタイプの特約を付帯している場合は、自分の過失が大きい事故でも刑事弁護のために特約を利用できる可能性があります。
まとめ
- 相手への請求(被害者として): 100%過失の場合は使えません。
- 相手からの請求への防御(加害者として): 弁護士費用特約ではなく、主契約の賠償責任保険で対応することになります。
- 自分の刑事罰への対応: 加入している保険が「刑事事件」を対象に含んでいる場合に限り、利用できる可能性があります。
ご自身の加入している保険がどの範囲までカバーしているか(一般民事、刑事事件など)、保険証券や約款で「付保されている事項」を改めて確認することをお勧めします。
通院頻度や通院期間について
交通事故後の病院への通院頻度、治療期間、および医師への伝え方については、適切な損害賠償請求や後遺障害認定を受けるために非常に重要なポイントとなります。
1. 通院頻度の目安
通院は、怪我の治療だけでなく、事故との因果関係や怪我の程度を立証するための重要な証拠となります。
- 週2回~3回が目安: むち打ち症などの場合、週に2回から3回程度の頻度で通院することが一つの目安とされています。
- 通院ブランクを作らない: 治療に空白期間(1ヶ月以上など)が空くと、事故との因果関係や症状の連続性が疑われ、慰謝料の減額や後遺障害非該当のリスクが高まります。特に事故直後、初診まで4日以上空くと因果関係が否定されるリスクがあります。
- 整形外科医の診察を優先: 整骨院(接骨院)に通う場合でも、定期的に整形外科の医師の診察を受け、経過を把握してもらうことが不可欠です。医師の診察がないまま整骨院のみに通い続けると、必要性・相当性が欠けると判断される可能性があります。
2. 治療期間の目安
治療期間は怪我の状態によりますが、実務上の一般的な傾向は以下の通りです。
- むち打ち症の場合: 一般的には3ヶ月前後、長くとも半年程度と言われています。半年(6ヶ月)を超えて通院を継続する場合には、治療の必要性をより慎重に検討する必要があります。
- 保険会社の「打ち切り」打診: 保険会社は一括対応(直接支払い)をしている場合、軽微な事故なら1〜3ヶ月、比較的大きな事故でも3〜6ヶ月程度で治療費の打ち切りを打診してくるケースが多いです。
- 症状固定: 治療を続けてもこれ以上の改善が見込めない状態を「症状固定」と呼び、これ以降の治療費は原則として賠償の対象外となります。
3. 医師に伝えるべきこと・注意点
診察時の受け答えや、カルテの記載内容は、後の後遺障害認定に直結します。
- 自覚症状を正確かつ一貫して伝える: 痛み、しびれ、重だるさなどの自覚症状を漏れなく伝えてください。特に14級9号などの認定を目指す場合、事故直後から症状が一貫して続いていることが重要です。
- 日常生活への支障を伝える: 「仕事でパソコン入力が辛い」「重いものが持てない」「家事に支障がある」など、具体的な仕事や生活への影響を伝えてカルテに残してもらうことが大切です。
- 整骨院への通院について相談する: 整骨院での施術を希望する場合は、必ず事前に主治医に相談し、医師の指示や同意を得た上で通院してください。
- 嘘や誇張をしない: ジャクソンテストやスパーリングテストなどの神経学的検査において、事実と異なる回答をすると、検査結果の整合性がなくなり、かえって信用性を失う恐れがあります。
適切な賠償を受けるためには、「医師による定期的な診察」と「症状の正確な申告」を継続し、医学的な証拠を積み重ねることが最も重要です。
整骨院への通院が後遺障害認定に与える影響は?
整骨院(接骨院)への通院は、適切な治療を受ける権利である一方で、後遺障害の等級認定や損害賠償額の算定において、慎重な対応をしないと不利な影響を与えるリスクがあります。
1. 後遺障害等級認定への影響(医学的証明・説明の観点)
むち打ちなどの後遺障害認定において最も重要なのは、医師による診断とカルテの記載内容です。
- 「医学的トライアングル」の欠如: 等級認定は「自覚症状」「神経学的所見」「画像所見」の整合性(トライアングル)が重視されますが、これらはすべて医師(整形外科医)による診断・検査を指します。整骨院は医療機関ではないため、そこでの施術記録は医学的な証明資料(医証)としては限定的にしか評価されません。
- 症状の一貫性の証明: 特に14級9号の認定では、事故直後から症状固定まで症状が「一貫して連続していること」が必須条件です。整骨院のみに通い、整形外科への通院が途絶えると、医師が経過を把握できず、後遺障害診断書に「一貫した症状」として記載してもらえなくなるリスクがあります。
- 非該当リスクの増大: 医師の診察を受けずに整骨院のみに通い続けると、自賠責保険の審査において「適切な治療が行われていない」あるいは「症状が軽快したから医者に行かなくなった」と判断され、非該当(等級なし)とされる可能性が高まります。
2. 治療費・慰謝料の認定への影響
整骨院の施術費用が損害賠償として認められるためには、以下の5つの要件(施術の必要性、有効性、内容の合理性、期間の相当性、費用の相当性)を満たす必要があります。
- 医師の指示・同意の重要性: 裁判実務や保険実務において、「医師の指示や同意」がない整骨院通院は、その必要性を否定されるケースが多いです。医師が同意していない場合、支払った施術費の全額が認められず、自己負担となるリスクがあります。
- 慰謝料算定の基準: 通院慰謝料は原則として通院期間を基礎に算定されますが、整骨院への通院頻度が過度に高い場合や、医師の診察が並行して行われていない場合、実通院日数が制限して評価されたり、慰謝料額が抑制されたりすることがあります。
3. 実務上の注意点(リスク回避のために)
- 整形外科への定期的な通院: 整骨院に通う場合でも、必ず週に1回、少なくとも月に数回は整形外科を受診し、医師に症状を伝えてカルテに残してもらうことが不可欠です。
- 事前に医師の同意を得る: 「整骨院に通いたい」という意向を主治医に伝え、同意を得てください。可能であれば、カルテや紹介状にその旨を記載してもらうのが最も安全です。
- 保険会社への事前連絡: 保険会社が整骨院通院を認めない場合、治療費の打ち切りを早められる原因になります。医師の指示があることを根拠に交渉する必要があります。
まとめ: 整骨院への通院自体は否定されませんが、「医師による経過観察」がセットであることが認定の絶対条件です。医師の診察を疎かにすると、後遺障害が残っても「医学的な証明ができない」として等級が認められないという、被害者にとって最も避けたい事態を招く恐れがあります。
後遺障害診断書の記載で医師に注意してもらうべきポイント
後遺障害診断書は、自賠責保険における後遺障害等級認定の可否を決定する「最も重要な書類」です。審査は、調査事務所が被害者と直接面談するのではなく、主治医が作成した診断書に基づく書面審査で行われるため、記載内容が認定結果に直結します。
医師に診断書を作成してもらう際、あるいは内容を検討する際に特に強調・確認すべきポイントは以下の通りです。
1. 自覚症状の正確かつ網羅的な記載
- 漏れなく記載する: 残っている痛みやしびれなどの症状をすべて正確に記載してもらう必要があります。診断書に記載されていない症状は、審査の対象になりません。
- 一貫性と連続性: 事故直後から症状固定時まで、症状が一貫して続いていることが重要です。
2. 他覚的所見と検査結果の整合性
- トライアングルの形成: 特に12級以上の認定を目指す場合、「自覚症状」「神経学的所見(テスト結果)」「画像所見(MRI等)」の3つが整合していることが不可欠です。
- 具体的な検査の実施: 医師に対し、必要に応じた神経学的検査(ジャクソンテスト、スパーリングテスト等)の実施と、その結果の正確な記載を依頼してください。
3. 将来の見通し(予後)に関する見解
- 回復困難性の明記: 等級認定には「将来においても回復困難と見込まれる精神的又は身体的毀損状態」であることが要件となります。
- 記載の工夫: 多くの医師は後遺障害認定の実務に精通しているわけではないため、「数年で改善する可能性がある」といった曖昧な記載ではなく、医学的に見て症状が固定しており、改善が困難であるという見解を適切に反映してもらうことが重要です。
4. 症状固定日の妥当性
- 慎重な決定: 症状固定日以降の治療費は原則として賠償対象外となります。治療を続けてもこれ以上の改善が見込めないと判断された正確な日付を記載してもらう必要があります。
5. 医師への働きかけと協力依頼
- 記載例の提示: 診断書の作成に不慣れな医師も多いため、弁護士が用意した記載例を参考資料として渡すことも有効な手段です。
- 意見書の活用: 診断書だけでは不十分な場合、具体的な仕事や日常生活への支障について医学的見地から補足する「意見書」の作成を医師に依頼することも検討してください。
- セカンドオピニオン: 主治医の協力が得られない場合や、記載内容に疑問がある場合は、他の専門医にセカンドオピニオンを求めることも一つの方法です。
注意点: 診断書を受け取ったら、提出前に必ず「症状固定日」や「自覚症状の内容」に誤りや漏れがないかを確認してください。一度提出した診断書の内容を後から修正することは極めて困難です。
弁護士に依頼した場合と依頼しなかった場合の示談金の差は?
弁護士に依頼する場合としない場合で示談金に差が出る最大の理由は、損害額の算定に用いられる「算定基準」が異なるためです。
1. 3つの算定基準による金額の差
交通遺児の損害賠償には、以下の3つの異なる基準が存在します。
- 自賠責保険基準: 法令で定められた最低限の補償基準です。
- 任意保険会社基準: 各保険会社が独自に定めている内部基準で、自賠責基準よりは高いものの、裁判基準よりは低く設定されています。
- 裁判(弁護士)基準: 過去の裁判例に基づいた基準で、いわゆる「赤い本」や「青い本」に掲載されています。弁護士はこの最も高い基準を用いて交渉を行います。
2. 具体的な金額の差(例:通院慰謝料)
資料によると、例えば「むち打ち症で半年間(通院日数50日)通院した場合」の慰謝料は、基準によって以下のような差が生じます。
- 自賠責基準: 約40万円強
- 裁判基準(弁護士基準): 最大で89万円
- 示談交渉での着地: 弁護士が介入すると裁判基準の8〜9割(約70〜80万円程度)で合意に至ることが多く、差額として30〜40万円程度の増額が見込める場合があります。
同様に、通院3か月(通院30日)の場合でも、自賠責基準(約25万円)と裁判基準(最大53万円)では、15〜25万円程度のメリットが生じるとされています。
3. なぜ弁護士が介入すると増額するのか
保険会社は、被害者本人との交渉では自社の内部基準(任意保険会社基準)を提示しますが、弁護士が介入すると対応が変わります。
- 訴訟リスクの考慮: 弁護士は交渉が決裂すれば裁判を起こすことが可能です。裁判になれば、保険会社は「裁判基準の100%」に加え、「遅延損害金」や「認定額の10%程度の弁護士費用」まで支払わされるリスクを負います。
- 交渉の着地点: このリスクを避けるため、保険会社は示談交渉段階であっても、裁判基準の80〜90%程度の金額を提示してくることが一般的です。
4. 費用倒れを防ぐ「弁護士費用保険(LAC)」の活用
「弁護士に依頼すると費用で損をするのではないか」という懸念については、弁護士費用保険(権利保護保険)を利用することで解消できます。
- この制度を利用すれば、法律相談料や着手金・報酬金が一定の限度額(一般的に300万円)まで保険から支払われるため、被害者の自己負担を抑えつつ、高い裁判基準での賠償を求めることが可能になります。
- 特に物損などの少額事件では「時間制報酬(タイムチャージ)方式」を選択することで、弁護士の執務量に応じた適切な費用を保険で賄うことができます。
結論として、弁護士に依頼することで、保険会社の提示額の1.5〜2倍、あるいはそれ以上の示談金を得られるケースが多くあります。 ただし、最終的な増額幅は過失割合や後遺障害の有無などの個別事情によって異なるため、まずは弁護士に相談することが推奨されます。
評価損がもらえるかどうかのポイント
車両の「評価損(格落ち損害)」とは、事故当時の車両価格と修理後の車両価格の差額を指します。
評価損が認められる具体的な条件や判断基準について、解説します。
評価損は大きく分けて、修理しても機能や外観に欠陥が残る「技術上の評価損」と、修復はされたが事故歴があることで交換価値が下落する「取引上の評価損」の2種類がありますが、実務上は主に「取引上の評価損」の成否が争点となります。
1. 評価損が認められるための主な判断要素
評価損が認められるかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 初年度登録からの期間(経過年数): 新しい車ほど認められやすいです。
- 走行距離: 走行距離が短いほど認められやすいです。
- 損傷の部位・程度: 車体の**骨格部分(フレーム等)**に重大な損傷がある場合に認められやすくなります。
- 車種・人気度: 外国車や国産の人気車種、高級車などは認められやすい傾向にあります。
- 購入時の価格・中古車市場価格: 高額な車両であることも考慮されます。
2. 認定の目安(一般的な基準)
明確な基準はありませんが、裁判実務における一応の目安として以下のような傾向があります,。
- 外国車または国産人気車種: 初年度登録から5年以内(走行距離6万km程度まで)。
- その他の車種: 初年度登録から3年以内(走行距離4万km程度まで)。
これらを超えると、評価損は認められにくくなるのが一般的です。なお、保険会社の独自の基準は、これよりももっと厳しい基準です。
3. 損傷部位による影響(修復歴の表示義務)
中古車販売業者には、特定の部位(骨格部分)の修復歴を表示する義務があるため、以下の部位に損傷が生じた場合は、取引上の評価損が認められやすくなります。
- 代表的な部位: フレーム(サイドメンバー)、クロスメンバー、フロントインサイドパネル、ピラー(フロント・センター・リア)、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロアパネル、トランクフロアパネル、ラジエータコアサポート(交換時)など。
また、モノコックボディ(フレームとボディーが一体化した構造)の車両は、衝撃が全体に波及しやすく修復が困難なため、評価損が認められやすく、金額も割高に算定される傾向があります。
4. 算定方法の傾向
評価損の算定方法にはいくつかありますが、裁判例では「修理費基準方式」が採用されることが多いです。
- 修理費基準方式: 認定された修理費の10%〜30%程度を評価損として認める方式です。
5. 注意点
- すぐに下取りに出さない場合: 事故後に車両の使用を継続し、直ちに下取り等に出さない場合でも、交換価値の低下という損害は発生しているとみなされ、評価損が肯定される裁判例は多く存在します。
- 証拠資料: 一般財団法人日本自動車査定協会が発行する「事故減価額証明書」などの資料は、裁判において有用な参考資料となります。
- 物損としての扱い: リース車両や所有権留保付車両の場合、原則として損害賠償請求権は所有者(リース業者や売主)に帰属しますが、修理費を負担したユーザーが請求できるケースもあります。
代車損が認められる場合や期間
交通事故後に代車費用が認められる期間や金額の上限については、主に「代車の必要性」と「相当期間」という観点から判断されます。
1. 代車費用が認められる要件
代車費用が認められるためには、原則として現実に代車を使用しており、代車使用料が発生していることが必要です。 また、単に車が使えないというだけでなく、公共交通機関での代替が困難であるといった「代車の必要性」が認められなければなりません。
2. 認められる期間(相当期間)
代車費用が認められる期間は、実作業に要した全期間ではなく、「相当期間」(客観的に修理や買い替えに必要とされる期間)に限定されます。
- 修理可能な場合: 通常の修理に必要な期間。部品の取り寄せに時間を要する外国車などの場合、50日〜73日といった長期が認められた例もありますが、一般的には2週間〜1ヶ月程度が目安とされることが多いです。
- 買替(全損)の場合: 新たな車両を購入して登録するまでに必要な期間。概ね1ヶ月程度が認められる傾向にあります。
- 交渉期間の扱い: 保険会社との修理・買替を巡る交渉に要した期間も、その内容や経過に合理的理由があれば相当期間に含まれます。ただし、被害者側が特段の理由なく交渉に応じなかった期間などは除外されます。
3. 金額や車種の上限(代車料の単価)
代車として認められる車種は、原則として事故車と同程度の車種です。ただし、金額面では以下のような実務上の制限(上限の目安)があります。
- 高級外国車の場合: 修理期間中の一時的な代替手段であるため、同等の高級外国車ではなく、国産高級車(トヨタ・クラウン等)のレンタカー料金(日額2万円〜2万5,000円程度)を上限とするのが判例の傾向です。
- 一般的な国産車の場合: 日額5,000円〜1万5,000円程度が目安となります。
- 修理工場のサービス代車: 修理業者が提供するいわゆる「工場代車」を使用した場合、損害保険会社の実務では日額3,000円程度で運用されるのが一般的です。
注意点
趣味やレジャー目的でしか使用していなかった車両については、代車の必要性自体が否定され、費用が認められない可能性がある点に注意が必要です。また、代車費用と休車損害を二重に請求することはできません。
修理額が買い替えた場合よりも高額になる場合の経済的全損とは?
修理費が車両の時価を超える「経済的全損」の判断基準は、基本的には「修理費が、事故当時の車両時価額に買替諸費用を加えた金額を上回るかどうか」にあります。
1. 経済的全損の定義
「経済的全損」とは、物理的には修理が可能であっても、修理費用が事故前の事故車両の時価等を上回る場合を指します,。最高裁判所の判例により、「修理不能」の類型の一つとして認められています。
2. 具体的な比較基準(現在の実務傾向)
以前は単純に「修理費」と「車両時価額」のみを比較していましたが、近年の下級審判例では、被害者が事故前と同じ状態を回復できるように、以下の合計額(再調達対価)を基準とする傾向にあります。
- 比較する対象の合計(再調達価格):
- 車両の時価額(中古車市場での販売価格),
- 消費税,
- 買替諸費用(車両を再取得するために通常必要となる費用),
したがって、「修理費 >(時価額 + 消費税 + 買替諸費用)」となった場合に、経済的全損と判断されます。逆に、修理費が時価額を少し上回っていても、諸費用を含めた総額を超えない場合は「分損」として扱われ、修理費相当額が損害として認められます。
3. 買替諸費用に含まれる主な項目
再調達価格の算定において、損害として考慮される諸費用には以下のものがあります。
- 自動車登録番号変更費用、車庫証明費用
- 検査登録・車庫証明の法定費用
- 納車費用
- 検査登録・車庫証明の手続代行費用
- リサイクル預託金
- 自動車取得税(現在は環境性能割)
※自賠責保険料や自動車税は、還付制度があるため原則として損害には含まれません,。
4. 車両時価額の算定方法
基準となる「時価」は、原則として「事故当時、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離の自動車を中古車市場において取得するに要する価額」です。 実務上は、以下の資料が頻繁に用いられます。
- オートガイド自動車価格月報(通称:レッドブック)
- 中古車価格ガイドブック(通称:イエローブック)
- インターネットの中古車販売検索サイトの価格
弁護士に依頼した場合としなかった場合の手間の差は?
弁護士に依頼した場合と依頼しなかった場合では、「相手方との交渉・連絡の負担」「損害賠償額の算定・立証の負担」「証拠収集の難易度」という3つの大きな側面で手間に決定的な差が生じます。
1. 相手方(保険会社)との交渉・連絡の負担
最大の差は、「全ての窓口を弁護士に一本化できるか」という点です。
- 依頼しない場合: 被害者は、加害者側の保険担当者(アジャスター等)と直接やり取りをしなければなりません。保険会社とのやり取りは、時間的な拘束だけでなく、被害者にとって非常に大きな心理的ストレスとなり、治療に専念することを妨げる要因となります。
- 依頼した場合: 弁護士が受任通知を送付した後は、保険会社は被害者に直接連絡することができなくなり、全ての交渉・事務連絡を弁護士が代行します。被害者は保険会社からの度重なる連絡に煩わされることなく、治療や日常生活の回復に専念できるという大きなメリットがあります。
2. 損害額の算定および立証の手間
交通事故の賠償項目は多岐にわたり、それぞれに複雑な算定ルールが存在します。
- 依頼しない場合: 被害者は自ら「赤い本」などの専門書を調べ、適切な損害額を計算しなければなりません。特に、修理費が時価を上回る「経済的全損」の判断や、将来の介護費用、逸失利益の計算などは専門知識が必要であり、個人で正確に算出するのは極めて困難です。
- 依頼した場合: 弁護士が過去の膨大な裁判例や「裁判(弁護士)基準」に基づき、最も有利な損害賠償額を論理的に構成します。被害者は、源泉徴収票や診断書などの必要書類を弁護士に提出するだけで、複雑な計算や法的な主張を組み立てる手間を全て任せることができます。
3. 証拠収集と事実認定の手続き
事故態様に争いがある場合、客観的な証拠の収集が不可欠です。
- 依頼しない場合: 警察が作成する「実況見分調書」や刑事記録、現場周辺の防犯カメラ映像などを個人で入手したり、内容を精査したりすることには限界があります。
- 依頼した場合: 弁護士は「弁護士会照会(23条の2照会)」という制度を利用し、個人では入手が困難な刑事記録や信号サイクル、防犯カメラ映像などの客観的な証拠を取り寄せることが可能です。これにより、過失割合の交渉においても、動かしがたい事実に基づいた強力な反論を行うことができます。
4. 弁護士費用保険(LAC)利用時の手続的特徴
もし弁護士費用保険(LAC)を利用する場合、弁護士への依頼に伴う「費用の支払い」に関する手間も軽減されます。
- 依頼しない場合: 加害者に請求する全てのプロセスを自分で行う必要があります。
- 依頼した場合: LAC制度では、原則として保険会社から弁護士へ報酬等が直接支払われます(直接支払い)。そのため、被害者が一旦大金を立て替え、後で保険会社に請求するという手間を省くことができます。
まとめ
弁護士に依頼することで、「専門知識が必要な調査・計算」や「ストレスのかかる交渉」という膨大な手間を、書類の提出と定期的な進捗確認という最小限の労力に置き換えることができます。
一方で、依頼に際しては弁護士との面談や委任契約の締結、事実関係の説明といった初期段階の手間は発生しますが、その後の解決までの全工程を考えれば、被害者の負担は劇的に軽減されると言えます。
死亡や後遺障害が残った場合における逸失利益の算定方法は?
交通事故による死亡事故および後遺障害における逸失利益(本来得られるはずであった将来の利益)の算定は、被害者の属性や障害の程度に基づき、一定の数式を用いて算出されます。
1. 後遺障害逸失利益の算定方法
後遺障害が残った場合の逸失利益は、以下の計算式で算出されます。 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
各要素の決定基準は以下の通りです。
- 基礎収入: 原則として事故前年の年収(源泉徴収票や確定申告書)を採用します。
- 年少者・学生: 全年齢平均の賃金センサス(学歴別など)を基準にします。
- 家事従事者(主婦・主夫): 賃金センサスの女子全年齢平均賃金を基礎とします。
- 労働能力喪失率: 自賠責保険の後遺障害等級(1級〜14級)に応じて定められた基準値が目安となります。
- 例:14級は5%、12級は14%、11級は20%など。ただし、職種や実際の仕事への影響により、裁判で修正されることがあります。
- 労働能力喪失期間: 原則として症状固定時の年齢から67歳までの期間とされます。
- 高齢者: 67歳までの年数と、平均余命の2分の1の年数のうち、いずれか長い方を採用します。
- むち打ち症: 14級の場合は5年、12級の場合は10年程度に制限される傾向があります。
- ライプニッツ係数: 将来得られるはずの現金を一括で受け取るため、中間利息(現在の法定利率は年3%)を控除するための係数です。
2. 死亡逸失利益の算定方法
被害者が死亡した場合の逸失利益は、本人が生存していれば得られたであろう収入から、本人の生活費分を差し引いて算出します。 基礎収入 × (1 - 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
後遺障害との主な違いは以下の点です。
- 生活費控除率: 本人が死亡により支出しなくなった生活費を差し引くもので、被害者の家庭内での役割によって率が決まっています。
- 一家の支柱: 被扶養者が1名なら40%、2名以上なら30%。
- 単身者(男女)・子供・幼児: 30%〜50%(男性単身者は50%、女性や若年女性は30%〜45%など)。
- 年金受給者: 年金収入に占める生活費の割合が高いため、50%〜80%(概ね60%)と高めに設定されます。
- 就労可能年数: 18歳(大学卒業予定者は22歳)から67歳までを原則とします。
- 年金逸失利益: 老齢年金などは死亡により受給できなくなるため、逸失利益として認められる対象となります。
3. 共通の留意事項
- 中間利息控除: 2020年4月1日以降に発生した事故については、改正民法に基づき法定利率3%を用いたライプニッツ係数が適用されます。
- 現実の減収がない場合: 後遺障害があっても現実の減収がない場合、原則として逸失利益は否定されやすいですが、本人の努力や勤務先の配慮がある場合、あるいは将来的に不利益が生じる恐れがある場合には認められることがあります。
- 既払金の扱い: 損害額の計算にあたっては、自賠責保険から既に受け取った金額などは、過失相殺後の損害額から控除されます。