
ある日突然、警察から「お話をお伺いしたいことがあります」と電話がかかってきたら、誰でも冷静ではいられないでしょう。「一体何のことだろう?」「逮捕されてしまうのか?」と、様々な不安が頭をよぎるはずです。
しかし、必要以上に怯える必要はありません。警察からの呼び出しは、あなたが「被疑者(犯罪の疑いをかけられている人)」とは限らず、「参考人(事件に関する情報を持っている可能性のある人)」として呼ばれるケースも多々あります。
いずれの立場であっても、その後の人生を左右しかねない重要な局面であることに変わりはありません。不用意な発言や対応で後悔しないために、あなたに与えられた権利を知り、冷静に行動することが極めて重要です。
ここでは、ご自身の身を守るために、警察からの呼び出しに応じる際に必ず押さえておくべき「3つの防御策」を解説します。
防御策1:呼び出しには「素直に」応じる
まず大前提として、警察からの呼び出しは正当な理由なく無視したり、拒否し続けたりすべきではありません。
【なぜ応じるべきか?】 出頭要請を無視し続けると、警察に「逃亡や証拠隠滅のおそれがある」と判断され、裁判所に逮捕状を請求されるリスクが高まります。任意での協力依頼が、強制的な逮捕に切り替わる事態は絶対に避けるべきです。
したがって、呼び出しがあった際は「協力する意思がある」という姿勢を明確に示し、素直に応じることが基本です。
【重要なポイント:日程は「言いなり」にならない】 ただし、「素直に応じる」ことと「警察の言いなりの日時に行く」ことは全く違います。あなたには仕事や家庭の都合があります。
「仕事の都合がつかないため、別の日時にしていただけないでしょうか」 「弁護士に相談してから、日程を改めてご連絡します」
このように、正当な理由を伝えて日程を調整することは、あなたの当然の権利です。むしろ、心の準備や対策を整えるためにも、即日出頭するのではなく、一度冷静になる時間を確保することが賢明と言えるでしょう。慌てて対応せず、まずは落ち着いてスケジュールを調整してください。
防御策2:供述は慎重に。調書への署名・押印拒否
取り調べ室という密室で、捜査官と一対一で対峙する状況は、非常に大きなプレッシャーがかかります。この状況であなたの身を守る最も重要な権利が「黙秘権(供述拒否権)」と「署名押印拒否権」です。
【無闇に供述しない】 あなたには、話したくないことについて話す義務はありません。これは憲法で保障された国民の権利です。
- 記憶が曖昧なこと、不確かなことは話さない。「〜だったような気がします」といった曖昧な供述が、意図しない形で確定的な事実として扱われる危険があります。
- 誘導尋問に乗らない。「普通はこうするよね?」といった問いに安易に同調してはいけません。
- 黙っていることに不安を感じる必要はない。沈黙は不利になることではありません。不利なのは、事実に反する、あるいは自分に不利益な内容の供述調書が作成されてしまうことです。
【供述調書には絶対に安易に署名・押印しない】 取り調べで話した内容は、「供述調書」という書面にまとめられます。この供述調書は、一度署名・押印してしまうと、後の裁判で極めて強力な証拠となり、その内容を覆すことはほぼ不可能になります。
捜査官は、あなたに分かりやすく内容を読み聞かせてくれるでしょう。しかし、その過程で、あなたの発言のニュアンスが変えられていたり、あなたに不利な内容が巧みに盛り込まれていたりする可能性があります。
【あなたの権利】
- 内容の確認と訂正(増減変更申立権): 調書の内容を隅々まで確認し、少しでも自分の認識と違う点があれば、遠慮なく訂正を要求してください。「この表現は違う」「この言葉は言っていない」など、具体的に指摘する権利があります。
- 署名・押印の拒否: 訂正に応じてもらえない場合や、内容にどうしても納得できない場合は、署名と押印を拒否してください。「疲れたから」「早く帰りたいから」といって安易に署名することは、絶対に避けるべきです。署名・押印は、あなたが「この書面の内容に1ミリの間違いもありません」と認める最終行為です。これを拒否することは、あなたに残された最大の防御策なのです。
防御策3:会話内容を注意深く観察し記録(メモ)する
取り調べという非日常的な空間では、冷静さを失いがちです。だからこそ、意識して状況を客観視し、記録することが重要になります。
【なぜ記録が必要か?】
- 弁護士への正確な報告: 後で弁護士に相談する際、どのような取り調べが行われたかを正確に伝えることができます。
- 不当な捜査の牽制・証拠化: 捜査官による威圧的な言動や、利益誘導(「これを認めればすぐ帰れる」など)があった場合、その記録が不当な捜査を主張する際の証拠となり得ます。
- 記憶の整理と冷静さの維持: 記録を意識することで、相手の言動を冷静に分析し、パニックに陥るのを防ぐ効果も期待できます。
【記録すべきポイント】
- 日時、場所、担当警察官の氏名・所属
- 呼び出しの理由(何の事件か)
- 自身が「被疑者」「参考人」のどちらの立場か
- 捜査官からの主な質問内容
- 自分がどのように答えたか
- 捜査官の気になる発言(威圧的な言葉、約束事など)
取り調べ中にメモを取ることが難しい雰囲気であれば、終了直後に記憶が鮮明なうちに、カフェや車の中などで必ず書き留めてください。この一手間が、後々の状況を大きく変える可能性があります。
最善の策は「弁護士への相談」です
ここまで3つの防御策をお伝えしましたが、これらをたった一人で、大きなプレッシャーの中で完璧に実行するのは非常に困難です。
警察から呼び出しを受けたら、まず警察署へ行く前に、刑事事件に詳しい弁護士に相談してください。 弁護士は、あなたの唯一の味方です。
- 取り調べに同行し、不当な捜査が行われないよう監視してくれます。
- 黙秘権などの権利をいつ、どのように使うべきか、具体的なアドバイスをくれます。
- 供述調書の内容を法的な観点から厳しくチェックしてくれます。
- 今後の見通しや、取るべき最善の策を示してくれます。
警察からの呼び出しは、あなたの人生における重要な分岐点です。どうか一人で抱え込まず、専門家の力を借りて、ご自身の権利をしっかりと守り抜いてください。