警察の取り調べ(取調べ)において、被疑者が自分自身の権利を守り、不当な不利益を被らないために注意すべきポイントは多岐にわたります。
1. 黙秘権(供述拒否権)の適切な行使
取調べにおいて、自分の意思に反して供述を強要されることはありません。これは憲法および刑事訴訟法で保障された黙秘権(供述拒否権)によるものです。
- 「話さないこと」による不利益はない: 捜査官から「黙秘を続けると反省していないとみなされ、罪が重くなる」などと言われることがありますが、裁判所が黙秘したこと自体を理由に量刑を重くすることは許されません。
- 雑談にも応じない: 核心部分だけでなく、氏名や身上経歴、あるいは取調官との「雑談」に対しても黙秘権は行使可能です。取調官は雑談を通じて情報を得ようとしたり、心理的な壁を崩そうとしたりするため、徹底して黙秘する場合は、取調室への移動中も含め一切の雑談に応じない姿勢が求められます。
- 助言の仕方のシミュレーション: 黙秘すると決めた場合、取調官から「なぜ黙秘するのか」と問われることがあります。その際は「弁護士の指示です」と答えたり、あるいは一切口を開かず沈黙を貫くなどの具体的な対応方法を、事前に弁護人と打ち合わせておくことが重要です。
- 場合によっては話すことも:初期の呼び出しや取調べ時には証拠の固さが不明確なので黙秘せざるを得ないものの、その後の警察の取り調べなどで証拠が固いことがわかる場合があります。この場合には黙秘せずに自供して被害者と示談した方が不起訴になる可能性が高まることもあるので、柔軟に対応する必要があります。弁護士との協議が必要な場面です。
2. 供述調書への署名押印拒否権の行使
取調べで話をした内容が書面にまとめられたものが「供述調書」ですが、これに対する署名・押印は慎重に行う必要があります。
- 署名押印の義務はない: 刑事訴訟法198条5項により、内容に誤りがないことを確認した後であっても、署名押印を拒絶することができます。
- 「作文」の危険性: 供述調書は被疑者の言葉がそのまま記録されるのではなく、取調官の主観や意図によって「作文」されることが一般的です。一度署名押印してしまうと、後の裁判でその内容を覆すことは極めて困難になります。
- 証拠としてのリスク: 否認事件において、一部でも自白に近いニュアンスが含まれた調書を作成されると、それが決定的な有罪証拠となるリスクがあります。そのため、弁護人は「供述はしても調書には署名しない」という戦略を助言することもあります。
3. 被疑者ノートによる取調べ状況の記録
取調べの状況を被疑者自身が詳細に記録しておくことは、防御活動において極めて有効です。
- 日々の記録: 取調べの時間、取調官の発言(脅迫や利益誘導の有無)、供述調書の作成状況などを、毎日「被疑者ノート」に記録します。
- 違法捜査の証拠化: 捜査官が「認めれば不起訴にする」といった不適切な利益誘導を行ったり、弁護人を誹謗する発言をしたりした場合、その記録は供述調書の任意性を争う際の重要な資料となります。また、記録すること自体が捜査官に対する牽制にもなります。
4. 不当・違法な取調べへの対処
捜査官が威圧的な態度をとったり、不適切な言葉を投げかけたりした場合、弁護人を通じて即座に抗議を行う必要があります。
- 弁護士との信頼関係破壊の阻止: 捜査官が「あの弁護士は金目当てだ」「解任したほうがいい」などと発言することは、弁護人依頼権を侵害する不当な行為です。このような発言があった場合、弁護人は抗議文を提出したり、監督官に苦情を申し立てたりします。
- 検察庁・警察に対する苦情申出: 違法な取調べに対しては、警察の「取調適正化指針」や検察庁の通達に基づき、正式な苦情申出書を提出して是正を求めることが可能です。
5. 取調べの可視化(録音・録画)の活用
取調べプロセスの透明性を高めるため、全過程の録音・録画を求めることができます。
- 全過程の録音・録画を申し入れる: 一部の都合の良い場面だけが録画されることを防ぐため、弁護人は「取調べ全過程」の録音・録画を検察・警察に申し入れます。
- 拒否された場合の意味: 捜査機関が録音・録画の申入れを拒否して作成された自白調書については、後の裁判でその任意性や信用性を争う際の有力な事情となります。
まとめ
警察の取り調べにおいて最も重要なのは、「孤独な密室で捜査官のペースに呑まれないこと」です。そのためには、事前に弁護人と密に接見し、黙秘権や署名押印拒否権の行使方法を具体的にシミュレートし、何かあればすぐに弁護人に相談するという姿勢を貫くことが不可欠です。