不起訴処分を得るための示談交渉において、弁護人が留意すべき具体的なポイントを資料に基づき整理します。示談は検察官が起訴・不起訴を判断する際の最も重要な考慮要素の一つです。
1. 示談交渉に向けた事前の準備
交渉を開始する前に、被疑者本人と方針を十分に協議することが不可欠です。
- 被疑者の意思確認と謝罪の意向: 被疑者本人が事実を認め、真摯に反謝しているかを確認します。被疑者の了解なしに示談を進めることはできません。
- 賠償条件の決定: 提示する賠償金の金額(実損額、慰謝料、迷惑料)や、告訴の取消しを条件とするかなどをあらかじめ決めておきます。
- 被害者の連絡先の入手: 検察官を通じて被害者の連絡先(氏名・電話番号等)の開示を求めます。被害者が拒否した場合は、弁護人の連絡先を伝えてもらうよう依頼します。
2. 被害者へのアプローチと面談の要領
被害者の感情に配慮し、誠実な態度で接することが重要です。
- 最初の接触: 電話での連絡が一般的ですが、唐突な連絡を避けるため、事前に弁護人から手紙(初動の挨拶と謝罪の意向を伝えるもの)を出すことが丁寧な手法です。
- 「示談ありき」を避ける: 最初から「示談したい」と切り出すのではなく、被害者の心情に耳を傾け、反省の意を伝える姿勢を貫きます。被害者からの「本当に反省しているのか」「再犯の恐れはないか」といった問いに誠実に答えられるよう、事前に被疑者と打ち合わせておきます。
3. 不起訴に直結する示談書の作成ポイント
示談書には、単なる金銭解決だけでなく、検察官の判断に影響を与える以下の文言を盛り込むことがポイントです。
- 宥恕(ゆうじょ)文言: 被害者が被疑者を「許す」、あるいは「刑事処罰を望まない」という意思表示を含めます。
- 告訴の取消し・被害届の取下げ: 親告罪の場合は「告訴を取り消す」旨を明記し、別途「告訴取消書」も作成して署名捺印をもらいます。
- 清算条項: 今後、本件に関し民事上の請求を互いに行わないことを確認します。
- 内容の正確な説明: 調印の際、被害者が後で「内容を理解していなかった」と検察官に説明することがないよう、条項の意味を丁寧に解説し、納得の上で署名をもらいます。
4. 示談成立後の迅速な対応
- 検察官への報告: 示談書や告訴取消書の原本(または写し)を直ちに担当検察官に提出します。
- タイムリミットの意識: 勾留されている事件では、勾留期間(通常10〜20日間)が満了するまでに示談を成立させ、検察官に提出しなければなりません。
5. 示談が成立しない場合の対応
被害者の処罰感情が強く示談が困難な場合でも、以下の努力を証拠化して検察官に伝えます。
- 謝罪文の提出: 被疑者本人の反省文や謝罪文を弁護人を通じて渡そうと試みます。
- 被害弁償の提供・供託: 金銭の受領を拒否された場合、弁護士会での預かり金や法務局への供託、あるいは贖罪寄付を行ったことを報告書にまとめ、被害回復の努力を尽くしたことを伝えます。
これらの活動を通じて、検察官に「訴追の必要性がない(起訴猶予)」あるいは「訴訟条件を欠く」と判断させることが、不起訴処分獲得への鍵となります。