警察によるスマートフォンやパーソナルコンピュータ(PC)の証拠収集は、近年の刑事訴訟法改正(平成23年改正、24年施行)により、デバイス本体の差し押さえだけでなく、ネットワーク上のデータや通信履歴まで広範囲に及んでいます。
提供された資料(『令状事務処理の手引』『令状実務詳解』等)に基づき、具体的にどのような証拠収集が可能なのか、その範囲と手法を解説します。
1. 端末本体および内部データの差し押さえ
警察は、裁判官の発付する令状(捜索差押許可状)に基づき、スマートフォンやPCなどの「電磁的記録媒体」を差し押さえることができます。
- デバイス本体の収容: 証拠が含まれる可能性のあるスマホやPC、USBメモリ、外付けハードディスクなどの機器そのものを持ち去ることが可能です。
- データの複写・印刷: 差し押さえるべき対象が電磁的記録である場合、機器を移動させるのではなく、必要なデータだけを他の記録媒体(CD-Rなど)に複写したり、書面に印刷したりして差し押さえる手法も認められています。これは、業務への支障を最小限に抑えるための配慮として行われることがあります。
2. リモートアクセスによる外部データの収集
平成23年の法改正により新設された「リモートアクセスによる複写」という手法により、差し押さえた端末とネットワークで接続された外部サーバー上のデータも収集の対象となります。
- クラウドやSNSのデータ: スマホやPCを操作して、その端末と電気通信回線で接続されている外部の記録媒体(クラウドストレージ、メールサーバー、社内用ファイルサーバーなど)に保存されているデータを、差し押さえた端末や警察のメディアに複写して差し押さえることができます。
- 対象範囲の特定: 令状には、複写すべき電磁的記録の範囲(例:特定のメーラーのアカウントでアクセス可能な領域、ブラウザの履歴にあるURLのアクセス領域など)を具体的に記載する必要があります。
- パスワード等の必要性: リモートアクセスのためには、原則として被疑者のIDやパスワードを把握している必要があります。差し押さえの現場でこれらを確認せずに、後から警察署等で独自にアクセスして複写することは許されないとされています。
- 国外サーバーへの対応: サーバーが日本国外にある場合、他国の主権侵害の問題が生じる可能性があるため、原則として捜査共助などの方法によるべきですが、利用者の同意がある場合などは許容されるという議論もあります。
3. プロバイダ等に対する記録命令付差押え
警察が直接端末を操作するのではなく、サービスプロバイダ等(通信事業者など)に対してデータを提出させる「記録命令付差押え」という制度もあります。
- データの作成・提出命令: 裁判官の令状に基づき、プロバイダ等に対してサーバー内に保管されている特定のデータ(電子メールの通信履歴、接続ログなど)をCD-R等に記録、または印刷させ、それを差し押さえる方法です。
- 活用例: 通信事業者が保管している接続ログや、メールサーバー内の特定の電子メールアドレスの送受信履歴などが対象となります。
4. 通信履歴や位置情報の取得
携帯電話会社などのキャリアが保有する情報の差し押さえも頻繁に行われます。
- 通話履歴: 特定の電話番号における一定期間の発着信履歴や料金明細内訳を、電磁的記録媒体として差し押さえることが可能です。
- 位置情報: 携帯電話が基地局との通信に用いた際の基地局に関する位置情報リストも、特定の期間を指定して差し押さえることができます。
5. 証拠収集における制限と注意点
警察によるデジタル証拠の収集には、憲法の令状主義に基づく一定の制約があります。
- 「必要な処分」としての強制力: 捜索差押許可状の執行にあたり、必要があるときは、警察は対象のスマホのロックを解除(錠をはずすのと同様の処置)したり、PCを操作したりするなどの「必要な処分」を行うことが認められています。
- パスコードを教えない場合:パスコードを教えない場合には解析することになりますが、iPhoneは解析できないことが多かったのですが、最近では、警察の解析技術が向上し解除できてしまうようです。
- 顔認証:身体検査令状と捜索差押許可状により、顔を強制的に押さえつけられて顔認証を解除されることになります。
- 関連性の要件: 差し押さえの対象は、令状に記載された被疑事実と関連性があるものに限られます。無関係なプライベートな写真を無差別に閲覧・収集することは、本来許されません。
- 証拠の特定性: デジタルデータは大量に含まれていることが多いため、捜査機関はできる限り対象物を特定して記載するように努めるべきであり、裁判所も「正当な理由」が認められる範囲に限定して許可を出します。
まとめると、警察はスマホやPC本体だけでなく、そこに繋がっているクラウド上のメールやデータ、SNSの投稿内容、さらにはキャリアが保管する通話・位置情報の履歴まで、裁判官の令状があれば非常に広範囲に証拠を収集することが可能です。ただし、これらを行うには被疑事実との関連性が厳格に求められ、特にリモートアクセスの場合は接続先やID等の特定が令状で要求されます。