特定は、現場の証拠から「人」へ、記録を一つずつたどる作業です。時間がかかるうえ、特定されたことと逮捕されることは別物です。
2-1 主な特定の経路
- リレー捜査(防犯カメラの連続確認)……現場そのものが映っていなくても、被害者が「駅の方から歩いてきた男性」と話せば、警察はその動線に沿って経路上のカメラを順に確認します。改札や駅構内のカメラは、人の出入りを比較的よく捉えています。
- 交通系ICカード・決済記録……記名式・モバイルのICカードの乗降記録、クレジットカードやATMの利用記録と周辺カメラの映像が、身元の割り出しにつながります。鉄道会社などへの照会を経るため、人物の割り出しまでに1〜2か月程度かかることも珍しくありません。
- 車両……ナンバー、ドライブレコーダー、周辺のカメラ映像から車両と運転者がたどられます。
- アプリ・SNS・マッチングサイト……メッセージアプリやサイト運営会社への照会(登録情報、決済に使ったカード情報など)が必要になります。照会は書面のやり取りになるため、3か月から半年、場合によってはそれ以上かかることがあります。
- 店舗・関係者が控えた情報……風俗店やエステ店では、予約時の電話番号、撮影された免許証、念書に書かされた住所などが、そのまま特定の材料になります。
- 被害者側が集めた資料……告訴状や被害届に添付されたLINEのやり取り、SNSのスクリーンショット、録音などです。
2-2 「特定」は「逮捕」ではない
- 特定はあくまで「誰か」がわかった段階です。逮捕には、なお相当な理由(嫌疑)と必要性が要ります。
- 証拠が弱い事案は、特定された後も「一度お話を聞かせてください」という任意の呼び出しで止まるのがほとんどです。警察としては、本人が自白してくれれば、という期待で呼んでいることも少なくありません。
- 「時間が経ってから逮捕された」という報道事例の多くは、その間に鮮明な映像や第三者の目撃など、固い証拠が積み上がっていたケースです。
- 逆に、「今のところ何も来ていない」ことが「申告されていない」ことを意味するわけでもありません。照会の最中は、表立った動きが見えないのが普通です。
2-3 客観証拠には「消える期限」がある
- 防犯カメラは上書き前提で運用されています。ホテルなどでは1〜2週間程度で消えることも珍しくありません。
- これは相手の証拠に限りません。二人が和やかに並んで入退室している映像のように、こちらに有利な証拠も時間とともに失われます。事件化が強く懸念されるケースでは、弁護士を通じた早期の保全を検討する余地があります。
- 自分の側のメッセージ履歴は、むやみに消さないでください。削除は不自然な行動として不利に評価されるうえ、合意や経緯を示す有利な証拠まで失うことになります。
この記事を書いた人
藤本 顯人(ふじもと けんと)
第一東京弁護士会所属
警察官として勤務しながら予備試験・司法試験に合格し、弁護士に。
捜査の現場経験をいかし、刑事弁護に注力しています。
クラリア法律事務所
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