
早期対応の重要性
刑事事件においては、初期段階での判断と行動が、その後の結果に決定的な影響を及ぼします。特に、警察による逮捕から検察官が勾留を請求するまでの最大72時間は、その後の身体拘束の長期化や最終的な処分内容を左右する、極めて重要な期間です 。この「ゴールデンタイム」とも言える期間に、専門家である弁護士の助言を得て迅速に行動することが、不利益を最小限に抑えるための絶対的な鍵となります。逮捕という事態に至る前から弁護士に相談し、適切な準備をしておくことが、最善の結果を導くための第一歩です。
逮捕を回避するための戦略
刑事事件において最も避けたい事態の一つが「逮捕」です。逮捕は身体の自由を奪うだけでなく、社会生活にも深刻な影響を及ぼします。しかし、事件が発覚した後でも、適切な対応を取ることで逮捕を回避できる可能性があります。
任意同行と逮捕の違いって?
警察から「警察署までご同行願えますか」と求められることがあります。これは「任意同行」と呼ばれ、「逮捕」とは法的に明確に区別されます。この違いを正確に理解することが、冷静な対応の第一歩となります。
ポイント①強制力の有無
任意同行と逮捕の最大の違いは、その強制力にあります 。
* 逮捕: 裁判官が発付した逮捕状に基づく強制処分であり、被疑者はこれを拒否することができません 。警察官は、必要であれば有形力を用いて被疑者を連行することが可能です。
* 任意同行: あくまで「任意」の協力をお願いする手続きであり、法的には拒否することが可能です 。令状も必要ありません。
ポイント②任意同行を求められる背景
警察が逮捕ではなく任意同行を求める背景には、いくつかの理由が存在します。一つは、逮捕の要件(被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由と、逃亡または証拠隠滅のおそれ)を現時点では満たせないが、事情聴取によって嫌疑を固めたい場合です。もう一つは、逮捕に伴う厳格な時間制限(警察は48時間以内に検察官に事件を送致しなければならない)を回避し、時間をかけてじっくりと話を聞きたいという捜査上の都合がある場合です 。
ポイント③拒否のリスクと適切な対応
任意同行は法的に拒否できますが、その対応には細心の注意が必要です。単に拒否したという事実だけで直ちに逮捕されるわけではありません 。しかし、その拒否の仕方が不適切であったり、正当な理由なく繰り返し拒否したりすると、事態を悪化させる可能性があります。
実務上、捜査機関からの任意同行の要請を3回程度拒否すると、「捜査に協力的でない=逃亡または証拠隠滅のおそれがある」と判断され、逮捕状請求の根拠とされるリスクが高まります 。また、拒否する際に大声を出したり、警察官を押しのけたりする行為は、公務執行妨害罪として現行犯逮捕される危険性すらあります 。
この状況は、知識のない個人にとっては非常に困難な判断を強いるものです。「任意」という言葉を信じて安易に同行すれば、不利な供述調書を作成されるまで長時間拘束されるかもしれません。一方で、頑なに拒否すれば逮捕のリスクを高めてしまいます。したがって、最も賢明な対応は、任意同行を求められた時点で即座に弁護士に連絡し、指示を仰ぐことです。可能であれば、弁護士同伴で出頭することが不利益を回避する最善策となります 。