整骨院(接骨院)への通院は、適切な治療を受ける権利である一方で、後遺障害の等級認定や損害賠償額の算定において、慎重な対応をしないと不利な影響を与えるリスクがあります。
1. 後遺障害等級認定への影響(医学的証明・説明の観点)
むち打ちなどの後遺障害認定において最も重要なのは、医師による診断とカルテの記載内容です。
- 「医学的トライアングル」の欠如: 等級認定は「自覚症状」「神経学的所見」「画像所見」の整合性(トライアングル)が重視されますが、これらはすべて医師(整形外科医)による診断・検査を指します。整骨院は医療機関ではないため、そこでの施術記録は医学的な証明資料(医証)としては限定的にしか評価されません。
- 症状の一貫性の証明: 特に14級9号の認定では、事故直後から症状固定まで症状が「一貫して連続していること」が必須条件です。整骨院のみに通い、整形外科への通院が途絶えると、医師が経過を把握できず、後遺障害診断書に「一貫した症状」として記載してもらえなくなるリスクがあります。
- 非該当リスクの増大: 医師の診察を受けずに整骨院のみに通い続けると、自賠責保険の審査において「適切な治療が行われていない」あるいは「症状が軽快したから医者に行かなくなった」と判断され、非該当(等級なし)とされる可能性が高まります。
2. 治療費・慰謝料の認定への影響
整骨院の施術費用が損害賠償として認められるためには、以下の5つの要件(施術の必要性、有効性、内容の合理性、期間の相当性、費用の相当性)を満たす必要があります。
- 医師の指示・同意の重要性: 裁判実務や保険実務において、「医師の指示や同意」がない整骨院通院は、その必要性を否定されるケースが多いです。医師が同意していない場合、支払った施術費の全額が認められず、自己負担となるリスクがあります。
- 慰謝料算定の基準: 通院慰謝料は原則として通院期間を基礎に算定されますが、整骨院への通院頻度が過度に高い場合や、医師の診察が並行して行われていない場合、実通院日数が制限して評価されたり、慰謝料額が抑制されたりすることがあります。
3. 実務上の注意点(リスク回避のために)
- 整形外科への定期的な通院: 整骨院に通う場合でも、必ず週に1回、少なくとも月に数回は整形外科を受診し、医師に症状を伝えてカルテに残してもらうことが不可欠です。
- 事前に医師の同意を得る: 「整骨院に通いたい」という意向を主治医に伝え、同意を得てください。可能であれば、カルテや紹介状にその旨を記載してもらうのが最も安全です。
- 保険会社への事前連絡: 保険会社が整骨院通院を認めない場合、治療費の打ち切りを早められる原因になります。医師の指示があることを根拠に交渉する必要があります。
まとめ: 整骨院への通院自体は否定されませんが、「医師による経過観察」がセットであることが認定の絶対条件です。医師の診察を疎かにすると、後遺障害が残っても「医学的な証明ができない」として等級が認められないという、被害者にとって最も避けたい事態を招く恐れがあります。