親が亡くなり遺言書を開けてみたら、「特定の相続人には財産を一切相続させない。相続人から廃除する」と書かれていた場合、どうなるのでしょうか?
「廃除」は、法定相続人の権利を奪う非常に強力な制度ですが、遺言書に書かれたからといって即座に権利を失うわけではありません。
今回は、遺言書による推定相続人の廃除制度の基本や効果、そして万が一自分が廃除の対象となってしまった場合の対応策について詳しく解説します。
1. 「推定相続人の廃除」とは?
「推定相続人の廃除」とは、被相続人(亡くなった方)の意思に基づいて、遺留分を有する推定相続人から相続権を剥奪する制度です。遺言によって廃除の意思を表示することも認められています(民法893条)。
単に「財産を相続させない」という遺言を書くだけでは、相続人には最低限の取り分である「遺留分」が保障されているため、遺留分侵害額請求が行使される可能性があります。しかし、廃除が認められると、その相続人は遺留分を含めた一切の相続権を失います。
廃除されても「代襲相続」は可能
廃除された本人は相続人になれず、遺留分侵害額請求もできなくなります。しかし、民法第887条2項の規定により、廃除された人に子供がいる場合は、その子供が代わりに相続人となります(代襲相続)。したがって、親が廃除されても、代襲相続人となった子供は自身の遺留分侵害額請求を行うことが可能です。
2. 廃除は簡単には認められない
遺言書に「廃除する」と書いてあっても、それだけで自動的に効果が生じるわけではありません。遺言による廃除の場合、遺言者が亡くなった後、遺言執行者が家庭裁判所に対して廃除の請求を行う必要があります。
そして、家庭裁判所は以下の「廃除事由」があるかどうかを厳格に審理します。
- 被相続人に対する虐待
- 被相続人に対する重大な侮辱
- 推定相続人にその他の著しい非行があったとき
家庭裁判所は、これらの行為によって「被相続人と推定相続人間の信頼関係が破壊されたと評価できるか」を基準に判断します。一時の激情による申立てであったり、関係修復が可能な場合、または被相続人側にも原因があるような場合には、廃除は認められません。 実際に、司法統計によれば廃除の申立ては年間200件程度ありますが、認容されるのは50件程度にとどまっており、簡単には認められない極めてハードルが高い制度であると言えます。
3. 廃除事由が認められるハードルは高い
廃除事由の有無については、客観的な事情が厳しく考慮されます。例えば、以下のようなケースでは、廃除事由に該当する(または立証できる)と判断されるのは非常に難しいと考えられます。
- 長年月が経過している過去の出来事:遠い過去の出来事をもって、現在に至るまで信頼関係が完全に破壊されていると評価されるかは疑問が残ります。
- 若年期の出来事や単発のトラブル:未成年の頃の出来事や、1回きりの揉め事のみをもって直ちに「虐待」や「著しい非行」と評価される可能性は低いです。
- 一時的な感情による暴言:親子喧嘩の延長などでの一時的な暴言が、直ちに「重大な侮辱」とまで言えるかは厳しく問われます。
さらに、これらの事由が存在したことを、家庭裁判所での手続きの中で客観的な証拠に基づいて立証しなければなりません。記録が残っていないような過去の出来事であれば、立証は極めて困難となります。
4. 遺言書に「廃除」と書かれていた場合の対応策
もし、遺言書に自分が廃除される旨の記載があったとしても、焦る必要はありません。以下のようなステップで適切に対応していくことになります。
① 遺言書の記載内容と効力の確認 まずは遺言書の内容を正確に確認します。遺言の中に明確に「廃除」の明記がない場合でも、文章の趣旨から廃除の意思表示と読み取れるかどうかが問題になることもあります。
② 家庭裁判所の手続きで廃除を争う
遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申立てを行った場合、審判の手続きの中で徹底的に争います。前述の通り、廃除事由を構成するような事実が存在しないこと、または該当行為が遠い過去のものであり「信頼関係を破壊するほどのものではない」こと、相手方に立証する証拠がないことなどを主張します。
家庭裁判所で前提となる廃除事由が認められなければ、遺言書に記載があっても廃除されることはなく、正当な相続権(および遺留分)を守ることができます。
まとめ
遺言書における「推定相続人の廃除」は、遺留分をも奪う厳しい制度ですが、家庭裁判所で実際に認められるケースは限られています。過去の一過性の出来事や証拠のない事柄を理由とした廃除請求に対しては、適切に反論することで退けることが可能です。遺言書の内容に納得がいかない場合や、廃除の手続きをされてしまった場合は、早めに相続問題に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。