風俗店(デリヘル等)を利用した際に、いわゆる「本番行為」に及んだ直後、店側のスタッフが現れ、「これは不同意性交だ」「刑事にするか民事(示談)にするか選べ」と迫られ、恐怖のなかでその場で高額の示談金を支払ってしまう──。当事務所には、こうしたご相談が一定数寄せられます。
こうしたトラブルの多くは、利用者本人が「後になって不安になった」という性質のものです。しかし中には、店と女性が連携し、あらかじめ用意した仕組みで金銭を巻き上げているのではないかと疑われる、用意周到なケースが存在します。本稿では、ある相談事例をもとに(店舗・関係者・利用者が特定されないよう、内容は加工しています)、こうした要求の具体的な手口と、そこに潜む法的な問題点、そして適切な対応について、問題提起の意味を込めて解説します。
なお、はじめにお断りしておきますが、本稿は真に同意のない性的行為(不同意性交等)を軽視する趣旨ではありません。同意のない行為は重大な犯罪です。本稿が問題にするのは、あくまで「不同意性交だ」という主張を威迫の道具として用い、正常な判断ができない状態で金銭を要求するという、恐喝が疑われる手口の存在です。両者はまったく別の問題として扱う必要があります。
1.典型的な手口──段階を追って
このタイプの要求は、しばしば次のような流れをたどります。
①「本番行為」への誘導と、最中の「録音」
本番が禁止されている店であるにもかかわらず、その場の雰囲気や女性側の働きかけによって、なし崩し的に本番行為に至ります。ここで見過ごせないのが、行為の一部始終が録音されていると後から明かされる点です。
通常、こうした行為を最初から最後まで録音することは考えにくく、この「録音」の存在自体が、あらかじめ金銭要求を想定していた可能性を強くうかがわせます。利用者が「入れていいか」と尋ねた際の、あいまいな一言(たとえば「ゴムなしは嫌」という趣旨の発言など)を、後から「嫌と言っている=不同意」の証拠として切り取るために録っているのではないか、という疑いです。
②直後のスタッフ乱入と「刑事か民事か」の二択
行為が終わり、利用者がシャワーを浴びている隙などに、女性が店に連絡を入れます。ほどなくスタッフが部屋に現れ、「わかっていますよね」と切り出し、「不同意性交だ。対応には刑事と民事の二つがある。どちらか選べ」と迫ります。
法律に詳しくない利用者は、「民事=示談」という説明を受け、少しでも穏便にと考えて民事を選びます。ここまでが、相手の描いたシナリオどおりに進む部分です。
③恐怖のなかでの即時・高額な示談要求
そのうえで、その場で数十万円から百万円単位の示談金を提示されます。利用者は「不同意性交は重罪で実刑になる」という恐怖を煽られ、正常な判断ができないまま、銀行振込などで即座に支払ってしまいます。
④用意された書面へのサイン
金銭の支払いと前後して、スタッフがあらかじめ用意した書面にサインを求めます。そこには、「強姦(レイプ)したことを認め、謝罪する」といった文言や、「金銭の受領をもって互いに債権債務がないことを確認する」といった一文が書き込まれていることがあります。恐怖のなかで、内容を十分に吟味しないままサインしてしまうのです。
2.なぜ問題なのか──潜む法的な論点
この一連の流れには、看過できない法的問題がいくつも含まれています。
(1)そもそも犯罪が成立するのか
不同意性交等罪が成立するには、相手の同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態でなされたことが必要です。明確な拒絶(「嫌だ」「やめて」という言葉、身をよじる、はっきりと抵抗するなど)がまったくなかったのであれば、そもそも犯罪が成立するのか、大きな疑問が残ります。あいまいな一言を切り取っただけで「不同意」と決めつけることには、無理があります。
(2)要求行為そのものが「恐喝」に当たり得る
正当な権利行使に名を借りていても、犯罪の成否が定かでないものを一方的に「不同意性交だ」と決めつけ、恐怖を与えて正常な判断ができない状態で金銭を交付させれば、それ自体が恐喝(あるいは詐欺)に当たり得ます。用意周到な録音、直後のスタッフ乱入、その場での即時の高額要求という一連の流れは、むしろ計画性を示すものといえます。
(3)「示談書」の当事者は誰か
見落とされがちですが、こうした書面は女性本人ではなく「店」との間で交わされていることが少なくありません。しかし、本来、被害者本人の民事上の請求を、店が代理する正当な権限があるのかは疑問です。弁護士でない者が報酬を得て他人の法律事務を扱えば、非弁行為の問題も生じ得ます。
(4)合意の有効性
そもそもの要求が恐喝に当たるのであれば、畏怖のもとでなされた合意は、取り消し・無効となる可能性があります。「強姦を認める」旨のサインも、恐怖のなかで書かされたものであれば、後から事情を説明する余地は十分にあります。もっとも、当事者双方とも表沙汰にしたくないため、有効性が正面から争われにくいという事情はあります。
3.支払った後にこそ残る「二次被害」のリスク
「その場で払って終わった」と思っても、実はそこからが問題です。一度支払ってしまった相手を、「もう一度搾り取れる」と考える者が存在するためです。想定される二次被害には、次のようなものがあります。
- 刑事の被害届を口実にした追加請求。 「民事の示談はしたが、刑事はまだだ。刑事を取り下げてほしければ、さらに払え」と揺さぶってくるパターン。
- 妊娠・アフターピル等を口実にした追加請求。 一定期間後に「妊娠した」などと持ち出してくるパターン。
- 自宅・家族への嫌がらせ。 書面に書かせた住所などを利用し、あえて自宅に手紙を送りつけ、家族の目に触れさせるといった圧力。これ自体は名誉毀損等の犯罪となり得ます。
- 本人による別途の刑事告訴。 店が「もう連絡しない」と言っても、それは店が止められるものではなく、女性本人が別途動く可能性は残ります。
「無視して待つ」ことが、必ずしも安全とは限らないのです。相手が次にどう動くか読めないまま、時効(不法行為なら原則として損害・加害者を知った時から長期に及ぶこともあります)を意識しながら、何年も悶々と過ごすことになりかねません。
4.一方で、軽視できない「本人側のリスク」
ここで、バランスのために重要な点を指摘しておきます。この種の事案は、利用者側にとっても決して楽観できません。
不同意性交等罪は、罰金刑が定められておらず、成立すれば重い処分が想定される犯罪です。しかも、本件のように「強姦を認める」旨の書面や行為時の録音といった客観的な資料が相手の手元にある形で終わっている場合、警察がまず目にするのは「書いてある内容」と「音声」です。
そうすると、逃亡のおそれ(罰金刑がなく処分が重い類型ほど、逃げると評価されやすい)や、罪証隠滅のおそれ(店の連絡先を把握しており、働きかけが可能と見られやすい)を理由に、当初から逮捕という展開もゼロとは言い切れません。
後から弁護士を通じて「そういう意味ではない」と説明する余地はありますが、最初の入口で不利な評価を受けるリスクがあるのです。
だからこそ、安易な自己対応は危険だといえます。
5.どう対応すべきか──「警告」と「警察への先回り相談」の合わせ技
以上を踏まえると、対応の勘所が見えてきます。
その場では、払わない・サインしない
大前提として、その場の恐怖に流されて即座に支払ったり、書面にサインしたりしないことが重要です。「刑事か民事か今すぐ選べ」という迫り方自体が、冷静な判断をさせないための手法です。
すでに支払ってしまった場合──弁護士を通じた「釘刺し」
すでに支払ってしまったケースでも、打つ手はあります。沈黙して相手の出方を待つより、弁護士を通じて広めに「釘を刺す」方が有効なことが多いといえます。具体的には、
- 一連の経緯は恐喝に当たり得ること、
- 用意周到な録音や即時の高額要求の不自然さ、
- 店が民事紛争を代理することの問題(非弁の疑い)、
- 自宅・家族への接触は名誉毀損等の犯罪になること、
を明確に伝えたうえで、こちらとしては支払った金銭の返還を求める余地もあること、場合によっては警察への相談も辞さないことを通告します。相手は「探られたくない事情」を抱えているのが通常ですから、こうした警告は強いブレーキとして働きます。その結果、追加請求をしない・刑事告訴をしない代わりに、こちらも恐喝を問題にしないといった落としどころ(あるいは一定額の返還・減額)に至ることがあります。
警察への「先回り相談」
同時に、警察へ先回りして相談し、こちらの認識を伝えておくことも有効です。これは犯罪でない以上「自首」ではありませんが、予防線として機能します。仮に後日相手が警察に駆け込んでも、あらかじめこちらの言い分と経緯が警察に共有されていれば、総合的な判断の材料となります。「警告」と「警察への相談」を組み合わせることで、相手の不当な動きを封じやすくなります。加えて、当該店舗にこの種のトラブルが頻発していないか、警察が把握している情報から手がかりが得られることもあります。
万一、逮捕された場合の初動
この種の事案では、家族に事前に事情を伝えておくことも難しく、あらかじめ準備できることは多くありません。もし逮捕された場合には、黙秘権を行使するか、あるいは「同意を得てしたのであって、不同意ではしていない」という一点のみを述べ、詳細は弁護士が来てから話すという対応にとどめるのが安全です。逮捕直後に「連絡したい弁護士はいるか」と尋ねられますので、その際に依頼先を伝えられるよう、弁護士の連絡先を控えておくとよいでしょう。
6.まとめ
風俗店の利用をめぐる「不同意性交だ」という主張は、真に被害がある場合と、それを口実にした恐喝スキームとが、外形上よく似ています。だからこそ、その場の恐怖で判断せず、専門家の目で切り分けることが決定的に重要です。
一度支払ってしまっても、諦める必要はありません。相手が最も嫌がるのは、金銭を取り返されることと、警察に知られることです。この二点を踏まえた「警告」と「先回り相談」を早期に行うことが、二次被害を防ぎ、悶々とした不安から抜け出すための、最も現実的な一手となります。
繰り返しますが、本稿は同意のない性的行為を擁護するものではありません。同意の有無という本質的な問題と、恐怖を利用した金銭要求という別の問題を、混同せずに扱うこと──そのために、早い段階で弁護士に相談されることをお勧めします。