「飲酒運転で警察に調べられているが、この先どうなるのか」——ご本人はもちろん、ご家族から不安の声が寄せられることの多い類型です。ニュースでは「飲酒運転」とひとくくりに語られますが、法律上は罪の種類も、成立要件も、立証の方法も細かく分かれています。
本稿では、酒気帯び運転と酒酔い運転の違い、それぞれがどのように立証されるのか、そして逮捕されるのか・在宅で進むのかといった手続の流れとリスクを、条文に即して解説します。
※本稿は一般的な法的情報の提供を目的としたものであり、飲酒運転を是認・助長する趣旨は一切ありません。飲酒運転は重大な犯罪であり、絶対に行ってはなりません。個別のご相談は当事務所までお問い合わせください。
1. 「飲酒運転」には二つの類型がある
道路交通法は、飲酒に関わる運転を大きく二つに分けています。酒気帯び運転と酒酔い運転です。両者は重さが大きく異なります。
(1)酒気帯び運転——「数値」で決まる類型
酒気帯び運転は、呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを身体に保有した状態で運転した場合に成立します(道路交通法117条の2の2、同法施行令の基準値)。
ポイントは、数値によって成否そのものが決まるという点です。0.15mg/Lという基準を下回れば、たとえアルコールを摂取していても酒気帯び運転という「犯罪」は成立しません(もっとも、飲酒運転が許されるという意味では決してなく、道義的・安全上の問題は別途残ります)。
さらに、0.25mg/L以上か未満かで違反点数・処分の重さが分かれ、行政処分(免許停止・取消し)にも直結します。数値が要件の中核である以上、その数値をどう把握したかが決定的な意味を持ちます。
(2)酒酔い運転——「状態」で決まる類型
酒酔い運転は、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で運転した場合に成立します(道路交通法117条の2)。こちらは酒気帯びより法定刑が重い類型です。
酒酔い運転の特徴は、特定の数値を要件としない点にあります。呼気アルコール濃度が基準値に達していなくても、現に正常な運転ができない状態であれば成立し得ます。逆に、数値が高くても、それだけで自動的に酒酔いになるわけではありません。あくまで「正常な運転ができないおそれ」という状態が要件です。
その判断は、直立できるか、まっすぐ歩けるか、質問に対して受け答えができるか、ろれつが回っているか(直立能力・歩行能力・会話能力の3要件を欠いていることが必須)、といった外形的な観察(実務では「酒酔い鑑識カード」などの形で記録されます)を通じて行われます。いわゆる泥酔に近い状態が典型例です。
2. 飲酒運転はどう立証されるのか
飲酒運転で検察官が起訴し、有罪を得るためには、運転時にアルコールを保有していた(あるいは正常な運転ができない状態だった)ことを証拠で立証しなければなりません。ここが実務上の分水嶺です。
(1)中心となるのは呼気検査
酒気帯び運転の立証で最も基本となるのが、呼気検査です(例外的に血液検査による場合があります。)。警察官が風船状の器具やアルコール検知器に息を吹き込ませ、呼気1リットルあたりのアルコール量を測定します。この数値が0.15mg/L以上であれば、酒気帯び運転の客観的な裏付けとなります。
つまり、酒気帯び運転は呼気検査の数値という客観証拠に大きく依存する類型です。
(2)検査を経ていない場合の立証不能
問題は、現場で呼気検査等が行われなかった場合です。この場合、運転時に体内にどれだけのアルコールがあったのかを、後から客観的に確定することは容易ではありません。
- 飲食店での飲酒量が判明しても、それが運転時点の呼気濃度に直結するとは限らない
- 時間の経過とともにアルコールは代謝されるため、事後の数値からの逆算(ウィドマーク法等)にも一定の前提と限界がある
- 目撃者の「酔っているように見えた」という印象は、酒気帯びの数値要件を直接立証するものではない
このように、検査という客観証拠を欠くと、酒気帯び運転の「数値」の立証は不可能になります。酒酔い運転についても、正常な運転ができない状態であったことを、外形的観察の記録なしに事後的に立証するのは容易ではありません。
もちろん、飲酒の事実自体が問題含みであることに変わりはなく、当て逃げ・物損等の別罪や行政処分の問題は別途生じ得ます。しかし、「飲酒運転罪」という特定の犯罪の成否という観点では、立証の可否が結論を大きく左右するというのが実務の実際です。
(3)検査の「拒否」に対する罪
呼気検査を正当な理由なく拒否した場合、検査拒否罪(道路交通法118条の2)が別途成立し得ます。これは、飲酒運転そのものとは独立した犯罪です。
ただし、この罪が成立する前提として、警察官が呼気検査を求め得る状況——すなわち、車両を運転していた(または運転しようとしていた)と認められる状況が必要です。たとえば車両が物理的に運転不能な状態に至っている等の事情があれば、検査を求める前提を欠くとして、検査拒否罪の成立が問題となる場面もあり得ます。個別事情によって結論は変わるため、ここは慎重な検討を要するところです。
3. 捜査の流れ——押収・取調べ・関係先への捜査
飲酒運転が疑われる事案では、典型的に次のような捜査が行われます。
車両やドライブレコーダー、携帯電話等の押収・分析 車内にアルコール類の容器が残っていないか、ドライブレコーダーに運転状況や飲酒をうかがわせる様子が記録されていないか、携帯の通信履歴から行動が追えないか——こうした点を確認するため、関係する物が押収されることは珍しくありません。押収されたこと自体は、直ちに重い処分を意味するものではなく、裏付け捜査の一環と理解するのが正確です。
飲食店等、関係先への捜査 どこで、何時頃、どの程度の飲酒をしたのかを確認するため、飲食店・宿泊施設などの関係先が捜査対象になることもあります。もっとも、飲酒の事実や量がある程度判明しても、それが運転時点の呼気濃度に直結しないことは前記のとおりです。
ご本人・関係者の取調べ 運転の経緯、飲酒の状況、事故態様などについて、取調べで供述を求められます。在宅事件では、警察からの呼出しに応じて出頭し、取調べを受ける形が一般的です。
4. 逮捕されるのか、在宅で進むのか
ご家族が最も心配されるのが「逮捕されるのか」という点です。
逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に行われるのが原則です。したがって、次のような事情があるときは、在宅で捜査が進む可能性が相対的に高くなります。
- 住居が定まっており、家族と同居しているなど、逃亡のおそれが小さい
- 車両・携帯等がすでに押収され、身元も明らかで、証拠隠滅のおそれが小さい
- 警察の呼出しに任意に応じている
- そもそも成立する罪が比較的軽微である、あるいは犯罪の成否自体に検討の余地がある
一つの目安として、現場で逮捕されなかった事案は、その後に改めて逮捕へ切り替わる可能性が必ずしも高いとは限りません(もっとも、事案により例外はあり、断定はできません)。逮捕には「その犯罪が成立していること」という前提が必要であり、成立する罪が軽微な物損等にとどまる見込みであれば、身柄拘束の必要性は一般に高くないと評価されやすくなります。
いずれにせよ、在宅であっても捜査は進行し、取調べや処分の判断は続きます。「逮捕されなかったから安心」ではなく、在宅事件としてどう対応するかが重要です。
5. 見落とせない論点——刑事処分と行政処分は別
飲酒運転では、刑事処分(罰金・懲役)と行政処分(免許の停止・取消し)が別個に進みます。判断する主体も枠組みも異なり、刑事で軽く済んでも行政処分が重く出ることも、その逆もあり得ます。
特に飲酒に関わる違反は行政処分上の基礎点数が高く、取消し・欠格期間(再取得までの制限)につながりやすい類型です。刑事の見通しとあわせて、行政処分のリスクも早い段階で見据えておく必要があります。
6. まとめ
- 飲酒運転には酒気帯び運転(数値で成否が決まる)と酒酔い運転(正常な運転ができない状態で成立する)の二類型がある
- 立証の中心は呼気検査や血液検査などの客観証拠であり、検査を経ていない場合は数値の立証が構造的に難しくなる
- 検査拒否には独立の検査拒否罪があり得るが、その成立には運転をめぐる一定の前提が必要
- 押収・関係先捜査・取調べを通じて捜査が進み、在宅で進行する事案も多いが、在宅でも対応は必要
- 刑事処分と行政処分は別であり、免許への影響を早期に見据えることが重要
飲酒運転が疑われる事案では、どの罪が、どの証拠で成立し得るのかを正確に見極めることが、見通しを立てる出発点になります。ニュースの印象だけで「重い処分は避けられない」と思い込む必要も、逆に「逮捕されなかったから大丈夫」と楽観する必要もありません。事案ごとの証拠構造を冷静に分析することが何より大切です。
ご相談ください
当事務所の弁護士・藤本顯人は、元警察官として捜査実務に精通しており、交通事件の刑事弁護に数多く携わってきました。飲酒運転をめぐる捜査がどのように進むのか、どの点が処分を左右するのか、行政処分にどう備えるべきかを、捜査側の視点も踏まえて具体的にご助言します。
ご本人・ご家族のいずれからのご相談も承ります。捜査は進行中でも、できるだけ早い段階での対応が結果を左右します。 ぜひ一度ご相談ください。