第4章 示談

被害者のいる事件で、不起訴や刑の軽減に最も直結する弁護活動が示談です。ただし示談は相手のある話で、時期と進め方を誤ると、かえって被害者の態度を硬化させます。

4-1 示談の効果は、どの段階で成立するかで変わる

  • 立件前……被害届や診断書が出される前に示談と被害弁償がまとまれば、事件化そのものを避けられることがあります。交通事故で人身事故の届出前に解決できれば、免許取消しのような重い行政処分のリスクも大きく後退します。
  • 起訴前……起訴猶予による不起訴の可能性が大きく上がります。器物損壊や名誉毀損のような親告罪では、告訴が取り消されれば起訴そのものができなくなります。
  • 身柄事件……勾留の回避や早期釈放の有力な材料になります。
  • 起訴後……執行猶予が付くか、罰金額や刑期をどこまで抑えられるかに影響します。ただし、告訴の取消しは起訴前までしかできません(刑事訴訟法237条1項)。

4-2 示談の進め方

  1. 被害者の連絡先を得る……被害者の連絡先は、通常、警察・検察を通じて、被害者の了解が得られた場合に限り弁護士にだけ伝えられます。本人や家族が直接連絡を取ろうとすると、威迫や罪証隠滅と受け取られる危険があります。
  2. 謝罪と条件の提示……謝罪文を渡し、示談金の額と支払方法を提示して交渉します。
  3. 示談書の取り交わしと支払い
  4. 検察官(起訴後は裁判所)への提出

4-3 示談書に入れる主な条項

  • 示談金の額と支払方法
  • 宥恕条項(加害者を許し、処罰を求めない旨)
  • 被害届・告訴の取下げ
  • 清算条項(本件について、ほかに債権債務がないことの確認)
  • 接触禁止、口外禁止、撮影データの削除(盗撮事案など)

同じ金額でも、宥恕条項が入るかどうかで処分への影響は大きく変わります。

4-4 示談が難しいときの手当て

  • 処罰感情が強い、「気づかなかったはずがない」という不信感が強い──こうした局面で無理に働きかけると逆効果です。押すべき時期と引くべき時期の見極めが弁護士の腕の見せどころで、時間の経過で態度が軟化することもあります。
  • 示談に至らなくても、被害弁償の態勢を客観的に示すことには独立した価値があります。弁護士の預り金として賠償の原資を確保する、任意保険で治療費や物損を確実に払える状態を整える、といった事実を情状資料として検察官に示します。
  • 被害者が受け取りを拒む場合は、供託や贖罪寄付という方法もあります。

4-5 「示談」を装った金銭要求に注意

被害者が本当にいる事件の示談は、正当で重要な手続です。他方で、「示談」の形を借りて恐怖につけ込み金銭を巻き上げる手口も、現に存在します。

  • 痴漢ハンター・盗撮ハンター……駅や繁華街で「いま撮りましたよね」と声をかけ、警察をちらつかせ、被害女性の「彼氏」役と「仲介役」が示談を演出して、近くのATMで現金を引き出させます。被害者が18歳未満なら示談する権限は親権者にあり、「彼氏」を名乗る他人に金銭を受け取る権限はありません。実態は恐喝・詐欺に当たり得ます。
  • 風俗店での「刑事か民事か、今すぐ選べ」……行為中の録音、直後のスタッフの乱入、その場での高額要求、「強姦を認める」と書かれた書面へのサイン。計画性がうかがえる場合、要求そのものが恐喝に当たり得ます。

対応の要点は、その場で払わない、サインしない、ATMに同行しないことです。正規の示談は、本人確認、代理権限の確認、整った合意書を伴います。封筒の裏に慌てて書かせる一筆は、示談の体裁を借りたものにすぎません。

すでに支払ってしまった場合も、打つ手はあります。弁護士を通じて、要求が恐喝に当たり得ること、店が民事紛争を代理する問題(非弁行為の疑い)、自宅や家族への接触は名誉毀損等になり得ることを伝える警告と、警察への先回りの相談を組み合わせると、追加請求や二次被害を止められることが多いのです。もっとも、本当に同意がなかった可能性がある場合は話がまったく別で、利用者側にも重い刑事リスクがあります。その切り分けこそ、その場の恐怖ではなく専門家の目で行うべきところです。

この記事を書いた人

藤本 顯人(ふじもと けんと)

第一東京弁護士会所属

警察官として勤務しながら予備試験・司法試験に合格し、弁護士に。

捜査の現場経験をいかし、刑事弁護に注力しています。

クラリア法律事務所

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