第6章 供述調書への対応

供述調書は、あなたの話を取調官がまとめて書く書類です。署名・押印すれば、後から「そんな意味ではなかった」と覆すのが極めて難しい証拠になります。何を話すかと同じくらい、何に署名するかが重要です。

6-1 法律が保障している権利

  • 黙秘権……終始沈黙し、または個々の質問に答えないことができます(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)。
  • 閲覧・読み聞かせと訂正の申立て……調書は本人に閲覧させるか読み聞かせて、誤りがないかを確認させなければならず、本人が増減・変更を申し立てたら、その内容を記載しなければなりません(同法198条4項)。
  • 署名・押印の拒否……署名押印は求められますが、拒否できます(同法198条5項ただし書)。
  • 在宅の任意の取調べでは、出頭を拒み、または出頭後いつでも退去することも法律上は可能です(同法198条1項ただし書)。ただし、拒否が続けば逮捕の必要性の判断に影響し得るため、実際の対応は弁護士と相談して決めるべきです。

6-2 調書は「あなたの言葉」そのものではない

  • 調書は一問一答の記録ではなく、取調官が「私は〜しました」という一人称の物語にまとめたものです。
  • その過程で、「当たったかもしれない」が「当たったことに気づいた」に、「よく覚えていない」が削られて断定に、といった変化が起こり得ます。
  • 故意・認識・同意の有無が結論を分ける類型では、このわずかな違いが致命傷になります。たとえばひき逃げで、防犯カメラに接触が映っていることと、運転者が車内から接触に気づいていたことは、法的にまったく別の問題です。前者を認めても、後者を認めたことにはなりません。

6-3 取調べでよくある揺さぶり

  • 映像の中身を見せずに「あそこは防犯カメラがあったんだけどな」と反応をうかがう(実際には米粒ほどの不鮮明な映像ということもあります)
  • 「認めれば早く帰れる」「認めた方が軽くなる」と促す
  • 映像を見せて「これは当たっているだろう」と迫り、そのまま署名・指印を求める

対応の基本は、記憶にないことは「覚えていない」と言い、推測で埋めないことです。酔っていて細部を覚えていないのが自然な場面で、相手の服装や距離を鮮明に語れば、そのこと自体が「意識して見ていた」という不審事由になりかねません。迷ったら「弁護士と相談してから答えます」と伝えてかまいません。

なお、本稿は嘘の供述を勧めるものではありません。話さない権利と、話すなら記憶どおり正確にという二本柱が原則です。

6-4 署名する前のチェックリスト

  1. 全文を読み聞かせてもらうか、自分で最後まで読む
  2. 自分が使っていない言葉・言い回しが入っていないか
  3. 「〜と思う」「〜かもしれない」が断定に変わっていないか
  4. 時刻、距離、速度、飲酒量など数字と時系列が正確か
  5. 違っていれば訂正を申し立てる。訂正されなければ署名しない
  6. 取調べの直後に、聞かれたこと・答えたこと・調書の要旨をメモし、弁護士と共有する

日本では、取調べに弁護士が立ち会うことは現状ほとんど認められていません。だからこそ取調べの前後の打合せが重要です。

6-5 「認める」か「争う」か

  • 証拠が固く、事実に争いがない事件……早期に認め、示談と情状に力を注ぐ方が、処分は軽くなりやすいといえます。
  • 証拠が弱い事件……「認めた方が不起訴になりやすい」とは限りません。被害者の供述と自分の供述が符合し、それまで空いていた証拠の穴を自分の口で埋めてしまうことがあるからです。
  • 故意・同意・認識が争点の事件……その中核だけは崩さないことが決定的です。ひき逃げで「嫌疑不十分」の不起訴を目指すのか、起訴猶予でよいのかによって、免許の行政処分の結論まで変わります。

方針は、最初の取調べの前に決めるのが理想です。一度作られた自白調書を後から覆すのは、非常に困難だからです。

この記事を書いた人

藤本 顯人(ふじもと けんと)

第一東京弁護士会所属

警察官として勤務しながら予備試験・司法試験に合格し、弁護士に。

捜査の現場経験をいかし、刑事弁護に注力しています。

クラリア法律事務所

〒170-0013

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