「行為のあとで『同意していない。お金を払わないなら警察に行く』と言われた」。パパ活、メンズエステ、デリヘルなどをめぐって、こうしたご相談が当事務所に多く寄せられています。
結論から言うと、警察から連絡が来る前に、弁護士を通じて示談交渉に動くのが最善です。ただし、交渉の中で自分に不利な事実を不用意に認めると、示談がまとまらなかったときに大きなリスクになります。
「払わないと被害届を出す」と言われるのはどんなケースか
典型的なのは、次のような流れです。
- SNSやマッチングアプリ、店舗を通じて、金銭のやり取りを前提に会う
- 事前の約束にない性行為(いわゆる本番行為など)があった、または相手がそう主張している
- その場で男性店員を呼ばれて不同意だと言われて、高額な示談金を要求される
- 数日から数週間後、「同意していない」「○○万円払わないなら被害届を出す」と連絡が来る
相談者の多くは、家族や職場に知られることや逮捕をおそれ、言われるまま払うべきか悩んでいます。
ここで大事なのは、2つの可能性を切り分けることです。本当に相手の意思に反する行為があったなら、重い刑事事件になります。一方で、事実と異なる主張で高額の金銭を求めてくる例があるのも事実です。
どちらの場合も、自分の判断で払ったり、反論したりするのは危険です。
警察から連絡が来る前に示談し、事件化を回避
とある事例
とある男性は、SNSで知り合った女性と、金銭を支払う約束で某所の個室で2回会いました。事前の約束では、性交はNGでした。
しかし男性は、性交行為に及んでしまいました。
行為中や直後に、女性が抵抗したり抗議したりする様子はなく、約束の金銭を受け取って別れたとのことでした。ところが約1か月後、女性から「不同意性交だ。警察に行った」という連絡がきました。ご相談の時点で、警察からの連絡はまだありませんでした。
弁護士の見立て
- 犯罪になるリスク:高い。事前に性交は断られていた行為です。行為後に抗議がなく金銭も受け取っているなど、有利な事情もありますが、それだけで「同意があった」とは必ずしも評価されない場合があります。
- 特定されるリスク:高い。施設では身分確認がなくても、支払い方法がクレジットカード決済(本人名義)であり、その場への交通手段もモバイル交通ICカードであり、本人と紐づいていました。時間がたてば、警察が本人にたどり着く可能性が高いと判断しました。
- 残り時間:長くない。仮に被害者とされる方が警察に通報・被害申告・被害届をしていた場合には、特定から呼び出しまでは通常1〜2か月程度かかるため、すでにその半分ほどが過ぎていました。
方針と結果
このケースでは、相手の連絡先はSNSのアカウントだけでした。ご本人からの連絡は避け、受任した弁護士が弁護士として連絡をとりました。
示談金の上限は事前にご本人と決めておき、相手の状況や反応、示談条件を踏まえて段階的に提示しました。その結果、無事に示談が成立し、警察への申告を取り下げてもらうことができました。ご本人は警察から呼び出されることなく、事件化を回避できました。
この事例から言えること
今回は相手と連絡がつき、示談がまとまりました。
しかし、示談がまとまらずに、相手が交渉に応じない、法外な金額を譲らない、すでに被害届が受理されている、といった場合は、示談なしで捜査に向き合うことになります。だからこそ示談交渉は、「まとまらなかった場合」も見据えて慎重に進める必要があります。
そもそも不同意性交等罪とは—
2023年7月の刑法改正で、強制性交等罪は「不同意性交等罪」(刑法177条)に変わりました。暴行や脅迫がなくても、相手が「同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難な状態」で性交をすれば成立します。
これは、従来のようなレイプ(ボコボコにして性交する、脅して性交するという類型)とは新たらに追加された形になります。
法律は、その状態を生む原因として8つの類型を挙げています。暴行・脅迫、アルコールや薬物の影響、不意打ちで拒むいとまがない場合、経済的・社会的な地位を利用する場合などです。
特に、最近多いのは、アルコールを摂取していたり、睡眠薬を服用しているケース、咄嗟のことで反応ができなかったなどと言われかねない状況の場合で、不同意主張されています。
押さえておきたいポイントは次の3つです。
- 法定刑が重い:5年以上の有期拘禁刑です。減軽がなければ執行猶予はつきません。
- 時効が長い:公訴時効は15年です。「しばらく何もなければ終わる」ということはありません。
- お金を払っていても同意にはならない:金銭のやり取りがあっても、約束にない行為まで同意したことにはなりません。
例えば、防犯カメラなどを捜査した結果、女性がアルコールで泥酔している様子があるような場合には、「同意しない意思を表明していた」と評価されやすく、捜査機関もこの点を重く見ます。
街には多数の防犯カメラがありますし、ホテルやカラオケ店には入退店時の様子やエレベーターでの様子などが詳細に記録されています。ここでの動きや、店舗での飲食状況などからアルコールで泥酔している様子があると、かなり重い対応が懸念されます。
もっとも、泥酔か否かは必須ではなく、あくまでも、アルコールの影響があれば足りるのが怖いところです。
行為中・行為後の様子、その後のやり取り、申告に至るまでの経緯なども、同意の有無を判断する材料になります。どちらに転ぶかは事情次第なので、早い段階で弁護士が事実関係を整理することが大切です。
元警察官が解説:匿名のつもりでも、警察はどうたどり着くか
「名前は名乗っていない」「身分証のいらない店だった」という相談者は少なくありません。しかし、SNSや電話番号、交通系ICカード、クレジットカード、ポイントカードなどが絡んでいれば、特定される可能性は十分にあります。防犯カメラのリレー捜査で特定されることもあります。
一般的な捜査の流れは、次のとおりです。
- 被害を訴える人から事情を聴き、やり取りのを確認する
- SNSや携帯会社、クレジットカード会社などに照会し、登録個人情報を調べる。
- 2で明らかになった氏名・住所から身辺調査をする。
- 運転免許の情報などで顔写真を確認し、現場周辺の防犯カメラの映像と照らし合わせる
- 本人だと判断できた段階で、事件性が微妙なケース(不同意というには微妙かも?と警察が判断)では電話で呼び出すこともあるものの、警察が不同意だと判断したケースでは、その刑の重さから逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れがあるとして、逮捕されるリスクが非常に高い。
各社への照会は回答に時間がかかり、場合によっては、段階的に行われる(まずA社、そこからわかった情報で次はB社)になることもあり、その後は身辺調査を行うため、申告から呼び出しまでは早ければ1〜2か月程度になることが多い印象です。
そして、被害者は事件から遅くとも数日以内に通報・被害届を出すことが多いので、事件から、数週間が、自分から動ける実質的な猶予です。連絡が来てから動くのと、来る前に動くのとでは、取れる選択肢が大きく変わります。
自首と出頭はどう違う?どちらを選ぶべきか
示談が難しい場合や、特定が時間の問題と思われる場合には、自分から警察に行くことも選択肢になります。
自首
犯罪をしたと認める
捜査機関に犯人と判明する前
刑が減軽されることがある(刑法42条)
出頭
自分の言い分を述べることができる(否認も可)
共通
逮捕のリスクを下げられることです。
自首は「犯罪をしました」と認めることが前提です。そのため、「同意があった」と主張したい場合は自首にはならないので、身元を明らかにして捜査に協力する「出頭」を検討します。
警察は、相手の言い分だけを前提に捜査を進めています。こちらから事情を説明し、逃げも隠れもしない姿勢を示せば、在宅のまま捜査される可能性が高まります。
ただし、本当に自分にたどり着きようがないケースでは、わざわざ出向くことが「やぶへび」になることもあります。特定される見込みと事案の内容を踏まえ、弁護士と相談して決めるべきです。
示談交渉の進め方——「まとまらなかった場合」を前提にする
本人から直接連絡しない
相手が「会いたくない」「警察を通して」と言っているのに本人が連絡すると、脅しや口止めと受け取られ、事態を悪化させかねません。連絡は弁護士を通すのが原則です。
相手の連絡先がSNSしかない場合も、こちらの個人情報は相手に知らせず(知られてしまうと現在ではSNSで暴露されたり名前検索などで職場に通報など社会的制裁をしてくることもあるためです。)に弁護士の名前で連絡をとることで、交渉の場を設けられることがあります。また、示談がまとまらなかった時でも個人特定リスク・暴露リスクを回避できます。
不利なことは認めず、相手から聞き出す
示談交渉では、お詫びの気持ちを伝えることと、事実関係を認めることを分けて考えます。交渉中のやり取りは、示談が決裂すれば、証拠として警察に提出されるおそれがあるからです。
「無理やりしてしまった」といった不用意な一言は、後から取り消せません。もちろん、嘘をつく必要はなく、嘘をついてもいけません。言うべきことと言わなくてよいことを、弁護士が整理して交渉します。
そのうえで、弁護士が相手から次の点を聞き取ります。
- 警察に何をしたのか(相談だけか、被害届を出したのか、受理されたのか)
- 事実関係をどう説明しているのか
- やり取りの記録や診断書など、他に証拠があるのか
- 示談に何を求めているのか(金額、謝罪、今後接触しないことなど)
これらをもとに、示談がまとまらなかった場合の見通しを検討します。立件される可能性、逮捕の可能性、出頭すべきかどうか、といった点です。交渉はこのリスク検討と並行して進めます。
示談金の相場
金額は事案によって大きく異なります。風俗店などで約束にない行為があったケースでは、30万円前後でまとまることが多い印象です。一方、一般人女性から不同意性交として被害が申告されているケースでは、数百万円を求められることも珍しくありません。
事前に依頼者と上限を決め、相手の状況を見ながら段階的に提示するのが基本です。
示談書に入れる内容
- 示談金の額と支払方法
- 被害届や告訴を出さないこと、または取り下げること(寛恕)
- 互いに口外しないこと
- 今後接触しないこと
- これ以上の請求をしないこと(清算条項)
支払いは示談書の取り交わしと引き換えに行います。交渉が長引くと、要求額が変わったり相手の気が変わったりするので、条件が合えば速やかにまとめることも重要です。
「払わないと警察に行く」と言われたときにやってはいけないこと
- 言われるまま本人がお金を払う:取り下げの約束が書面に残らず、追加の要求を受けたり、結局被害届を出されたりするおそれがあります。
- 感情的に反論する:相手を硬化させ、示談の道を閉ざします。
- やり取りやアカウントを削除する:証拠隠滅を疑われ、逮捕の可能性を高めます。自分に不利に見えるものも含めて、そのまま保存してください。
- 相手に何度も連絡する、会いに行く:脅しや口止めと受け取られる危険があります。
恐喝になることはあるか
被害の申告や示談金の請求そのものは、正当な権利です。ただし、事実と異なる主張で金銭を要求したり、社会通念を大きく超える金額を脅して払わせたりすれば、恐喝罪(刑法249条)が問題になることもあります。
とはいえ、こちらにも弱みがある状態で「恐喝だ」と争うのは、得策でないことがほとんどです。相手の要求が不当かどうかの判断も含めて、弁護士に任せることをおすすめします。
よくある質問
お金を払って会った相手でも、不同意性交等罪になりますか?
なります。お金のやり取りがあっても、性交に同意したことにはなりません。特に、事前の約束にない行為を断られた後に及んだ場合は、成立するリスクが高くなります。
警察からまだ連絡がありません。何もしなければ大丈夫ですか?
大丈夫とは限りません。SNSや電話番号から特定されることが多く、公訴時効は15年あります。連絡が来る前の今が、示談や出頭を検討できる時期です。
示談すれば、必ず事件にならずに済みますか?
必ずではありません。しかし、被害届が受理される前に示談が成立すれば、通常は事件化を避けられる可能性が高まり、また、個人的法益侵害の犯罪であるため、受理後でも示談は不起訴の判断で非常に重視されます。
相手の年齢を確認していませんでした。問題はありますか?
相手が18歳未満だった場合、同意の有無にかかわらず、児童買春など別の罪が問題になります。16歳未満の場合は、年齢差によっては同意があっても不同意性交等罪が成立します。年齢に不安がある場合は、早めにご相談ください。
家族や職場に知られずに対応できますか?
弁護士には守秘義務があり、郵送物の扱いや連絡方法にも配慮します。示談書に口外しない条項を入れることもできます。ただし、逮捕されると、警察が報道機関に一斉に個人情報を流してしまうので、職場に発覚するリスクが高まります。そうなる前に、早めの対応が大切です。
まとめ
- お金を払った相手でも、断られた後の行為は不同意性交等罪にあたるおそれがある
- 匿名のつもりでも、SNSや電話番号、クレジットカードやポイントカード、交通系ICカード、防犯カメラのリレー捜査により個人特定されることが多い
- 本人が直接連絡せず、弁護士を通じて示談交渉する
- 交渉では不利なことを認めず、相手から事実関係と現状を聞き出す
- 示談がまとまらない場合に備え、出頭も含めて方針を検討しておく
この記事を書いた人
藤本 顯人(ふじもと けんと)
第一東京弁護士会所属
警察官として勤務しながら予備試験・司法試験に合格し、弁護士に。
捜査の現場経験をいかし、刑事弁護に注力しています。
クラリア法律事務所
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